植物は傷つくと〈悲鳴をあげる〉ことが明らかに

約5メートル先まで届く植物のクリック音が、初めて人間の耳にも聞こえるようにチューニングされた。
Plants Make Sounds When Hurt, Scientists Confirm, And Now You Can Hear It
Image: ED JONES / Contributor via Getty Images

あなたのトマトの苗は水がほしいと泣いているかもしれないが、その嘆きは他の動植物には聞こえても、人間の耳には届かない──。それがストレスを受けた植物が発する破裂音やクリック音を人間の可聴域に合わせてチューニングした、最新の研究結果だ。

この革新的な実験から、損傷や脱水など、害を及ぼすストレスにさらされた植物が、約5メートル離れた動植物に聞こえる超音波を発することが明らかになった。このように、植物はを使って他の生態系とコミュニケーションを取っている。この結果は、いまだに謎多き植物の世界を解明するヒントを与えると同時に、気候変動による農業の問題を解決する糸口を握っているかもしれない。

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植物は複雑な香りや視覚的な美しさ、トゲトゲした表面、果実やナッツなどの美味しいご馳走まで、仲間と交流するさまざまな方法を編み出し、人間もその恩恵にあずかってきた。しかし、音を立てることはあまり知られていない。過去の研究では植物に直接機器を取り付けて録音したが、これらの音の信号がどれくらいの距離まで届くのか、仲間の種がそれを聞くことができるのかどうかは明らかになっていなかった。

今回、テルアビブ大学の植物学者イツァーク・ケイト(Itzhak Khait)率いる研究チームは、タバコとトマトが半径5メートル以内で検知可能な高周波音を発していることを発見した。ストレスを受けた植物の音は非常に具体的だったため、機器の学習ツールがその音響振動のパターンのみに基づいて、水が足りないのか、切られて苦しんでいるのか、もしくは対照群が発する音なのかを区別できたほどだ。

学術誌『Cell』に3月30日に掲載された論文によれば、この結果は「これまでずっとほぼ無音だと考えられてきた植物の世界に対する私たちの理解を変えるかもしれない」という。

「〈植物はなぜ無言なのか〉という進化にまつわる疑問が、このプロジェクトの出発点になりました」とテルアビブ大学の進化生物学者で、本論文の責任著者であるライラック・ハダニー(Lilach Hadany)はメールで説明した。「どうやら植物は、音のコミュニケーションから多くの利益を得ているようです」

ハダニー教授は、彼女のチームが植物は空気伝播音を立てるだろうと予測していたものの、あまりに明瞭な結果に驚いたと付け加えた。「特に喜ばしいのは、これらの音が有益な情報をもたらしたこと、つまり植物の種類やストレスの種類に関する情報を含んでいたことです」

先行研究は、植物がキャビテーションと呼ばれるプロセスの一環で維管束系の中に気泡をつくり、それを割ることで音響振動を生み出すことを示唆していた。音が伝わる範囲を調べるため、ハダニー教授と彼女のチームは茎を切ったり、水やりの回数を減らしたりすることで、トマトとタバコの苗に意図的にストレスを与えた。

この結果は、ストレスを受けた植物が最高で1分間50回──ストレスのない植物よりもはるかに多く──音を発していて、そのクリック音のパターンは症状によって異なることを示している。例えば、無響室で植物の音を測定した機器の学習ツールは、より高精度で騒がしい温室環境に行われたその後の実験で、植物の病気を特定することに成功した。

「この結果は、植物は無響室でも温室でも数メートル離れた場所まで届く空気伝播音を発していることを示している」とチームは論文中で説明する。「さらに、この音は植物の生理状態に関する情報を伝えていることが明らかになった。機器の学習モデルをトレーニングすることで、植物が発する音のみに基づき、水不足によるストレスを受けているのか、切られたのか、他の植物をコントロールしているのかを区別することが可能になった」

今回の研究がタバコとトマトを対象にしたのは、この2種の研究が進んでいるためだが、研究者たちは小麦、トウモロコシ、サボテン、カベルネ・ソーヴィニヨンなど他のさまざまな植物からも、音を測定することに成功した。ハダニー教授によれば、この音は植物のコミュニケーションの手段なのか、単なるキャビテーションの副産物である付随的な音なのかはまだ不明だが、多様な種に共通する反応であることは確かだという。

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「現時点でわかっているのは、音が空気中を伝わっているということ、そこに情報が含まれるということです」と彼女は説明する。「したがって、自然淘汰が音に関連のある他の有機体(動物と植物)に作用し、その音を聞き、理解できるようにしたのかもしれません。その有機体には、植物の音を聞き、食料源や卵を産む場所を選ぶために情報を活用する動物も含まれます。ストレスに備える植物もあるかもしれません」

「その結果、自然淘汰が音を発する植物に作用する(音の放出を増やす、もしくは減らす)可能性もありますが、現時点では推測に過ぎません」とハダニー教授は続ける。「将来の研究が、誰がこの音を聞いているのかを明らかにし、この音がコミュニケーションの手段としていかに進化してきたのか、ヒントを与えてくれるでしょう」

将来の研究によって植物の超音波の言語が解明され、人間が彼らの会話を盗み聞きできるようになる可能性もある(一番おしゃべりになるのは気分を害されたときのようだが)。科学者が植物と他の動植物の交流を解明する助けになるだけでなく、農家にとっては作物の健康状態を把握する新たなツールになるかもしれない。

「植物の音は作物の必要水量や、場合によっては病気の状態──農業における極めて重要な問題──を把握する手段になるかもしれない」とチームはいう。「気候変動によって干ばつの被害が広がっている現代において、食料安全保障の観点からも生態系にとっても、効率的な水の使用はますます重要な課題となっている」

「植物が音に反応すること、特に音に反応して干ばつ耐性を高めることはすでに証明された」とチームは結論づける。「植物は干ばつのストレスを受けたり、傷ついた周囲の植物の音に適応反応を示す可能性もあるのだろうか? 生物音響学の分野でのさらなる研究、特に異なる状況や環境下における植物の音の放出や反応の研究によって、植物と自然環境の間のシグナル伝達経路が明らかになることを期待したい」