バナナがコカインの理想的な〈密輸パートナー〉になったわけ

無実のバナナが、麻薬を扱うギャングにとって格好の隠れみのになっている。
Max Daly
London, GB
NO
translated by Nozomi Otaki
cocaine-bananas
PHOTO: 英国国家犯罪対策庁/ 英国国境局 / チェコ警察 / モンテネグロ政府

この世には、有名なコンビが数多く存在する。ハンバーガーとポテト。ジョン・レノンとポール・マッカートニー。金持ちと悪趣味。そして、バナナとコカインだ。

バナナの積み荷は、南米から英国やヨーロッパに大量のコカインを輸送する麻薬密輸業者に大人気の偽装アイテムとなっている。

2022年7月末、英国警察はイングランド南東部のエセックス港で、コロンビアの船内のバナナに0.5トンのコカインが隠されているのを発見した。

このような大量の密輸の背景には、ここ最近警察の手入れが増加し、大西洋を渡ってきたバナナの中からコカイン──コロンビアでは1キロ約3200ポンド(約52万円)で入手できるが、英国では3万ポンド(約487万年)で販売される──が相次いで発見されていることが挙げられる。

6月には、ポルトガルのセトゥバル港で、コロンビア産バナナの中に8トンのコカインが発見された。その2週間前には、チェコのスーパーで荷解きされたバナナの中に、840キロのコカインが発見されている。バナナと同梱されたコカインが手違いでスーパーや商店に届けられたのは、これが初めてではない。ベルギーのある農家は、市場で仕入れたばかりのバナナ数箱を売ろうとしたときに、箱の中のコカインに気づいたという。

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今年4月、コロンビアからイングランド南岸のサウサンプトン港に到着したコンテナ内のバナナのパレット約20個の中に、英国での押収量としては2015年以来最大となる末端価格3億ポンド(約480億円)相当の4トンのコカインが発見された。

この港では、今年1月にコロンビア産バナナと一緒に100キロ超のコカインが発見されたばかりだ。さらにその1週間後には、サウストンプソンでアントワープ行きのバナナの箱からコカイン1トンが、バルカン半島のモンテネグロでエクアドルからアルバニアへ向かうバナナに同梱されたコカイン400キロがそれぞれ発見された。

7月に入ると、イングランド沿岸の町ケントで、コスタリカから輸送されたバナナの箱の中に1.2トンのコカインが発見され、イタリアのジョイア・タウロ港でバナナと一緒にコカイン3トンが発見された。同様の例は枚挙にいとまがない

一体何が起きているのか?なぜコカインとバナナが一緒に発見される事件が多発しているのだろう。

コカインとバナナは、密接な関係にある。どちらも南米産の商品で、ヨーロッパでの人気が高い。例えばヨーロッパ最大のバナナ消費国である英国は、バナナ輸入量世界第7位だ。2020年に英国が輸入したバナナは、4億7600万ポンド(約774億円)相当にのぼる。コカの葉の栽培面積が世界最大のコロンビアは、世界最大のコカイン生産国でもある。多くの西欧諸国がそうであるように、英国もコカインの熱心な消費者で、年間32億ポンド(約5200億円)相当の粉末やクラックコカインを消費している。 

「バナナとコカインは同じ地域で生産されていて、どちらも英国での需要が高いです」と組織犯罪コンサルタントで、元英国国家犯罪対策庁(National Crime Agency)薬物対策部門代表のトニー・サガース(Tony Saggers)は説明する。

「だからこそ、同じ入国地点や市場に向かう商品の片方の合法性を利用し、他方を偽装し隠蔽することは、理にかなっていると言えます。密輸業者は、数百箱のバナナが英国へと届けられるなかで、一定の成果が得られることに気づいたのです」

サガースによれば、密輸業者は合法のバナナの積荷にコカインの包みを忍ばせて目的地で取り出すか、ダミー会社や偽造書類を使って自分たちの積荷を準備するかのどちらかだという。

さらに彼は、コカイン密輸業者が英国のEU離脱に伴うコロンビアからのバナナ輸入量増加を利用する可能性がある、と指摘する。「もし、ブレクジットの影響によって業界が変化した結果、ソフトフルーツの農家が大多数のバナナを直接英国に届けることになれば、犯罪者もそれに適応し、偽装・隠蔽のためにこの直接輸送を活用するようになるでしょう」

しかし、バナナがコロンビアのコカインギャングにとってこれほど理想的な密輸パートナーになったことには、もっと具体的な理由がある。

「コカインが主にバナナの積荷で運ばれる理由は3つあります」とアメリカ大陸の組織犯罪を研究するシンクタンク〈Insight Crime〉の共同ディレクター/共同創設者で、コロンビア在住のジェリー・マクダーモット(Jerry McDermott)はVICE World Newsに語った。「まず、コロンビアの主要なバナナの生産地であるウラバは、ターボ輸出港があるため、国内で最も強力な麻薬密輸組織〈Gaitanistas〉の拠点になっています」

「次に、傷みやすいバナナは、港に着いたら税関に圧力をかけ、できるだけ早く輸送する必要があります。最後に、バナナは冷蔵コンテナで運ばれるため、冷却ユニットや通常のコンテナより分厚い壁にコカインを隠すのに好都合なのです」

英国王立防衛安全保障研究所(Royal United Services Institute)が運営する研究グループ〈Organised Crime and Policing Research Group〉の取締役代行、キース・ディッチャム(Keith Ditcham)は、次のように説明する。「南米からのコカインは、ほとんどがコンテナのばら荷で運ばれます。密輸業者には偽装のための荷物が必要で、その偽装の荷物がコロンビアからヨーロッパへの輸出の現状を反映しています。つまり、南米と英国間のバナナの取引量が安定しているため、当然バナナが隠れみのとして使われます。密輸業者は高価な商品を使いたがらないので」

バナナがそれほどコカインの密輸パートナーとして浸透しているなら、当局も十分な対策をとれるはずだ。「ええ、危険信号は出ていますよ」とディッチャムはいう。「職員たちはこのフルーツがコカイン密輸の隠れみのに使われていることを十分承知しています。ですが、そのためにはまず情報が必要です。すべての荷物を調べるわけにはいきません。」