反マスク派を変えるのは反ワクチン陰謀論?

反マスク派や反ワクチン派のひとびとが、マスクを着け、ソーシャルディスタンスを保つことを検討し始めている。そのきっかけとなったのは、ワクチンにまつわる陰謀論だ。
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
反ワクチン派の中で広まった陰謀論がきっかけで、反マスク派がまさかの行動を検討し始めている。マスクを着け、ソーシャルディスタンスを守ることだ。
2020年9月5日、ローマで開催された〈ノー・マスク〉デモで真ん中を切り取ったマスクを着ける男性(Photo by Stefano Montesi - Corbis/Corbis via Getty Images)

反ワクチン派の中で広まった陰謀論がきっかけで、反マスク派がまさかの行動を検討し始めている。マスクを着け、ソーシャルディスタンスを守ることだ。

その陰謀論というのは、ワクチン接種済みのひとが未接種者にある種のタンパク質を「撒き散らし」、未接種者に悪影響を及ぼす、という内容だ(細部に差異はあれど、大筋は大体どれもこんな感じである)。「撒き散らされた」タンパク質は主に、月経不順、不妊、流産の原因になるらしい。全く根拠のない流言であるが、この主張は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界人口を減らすための策略であり、そのワクチンは人類を淘汰するための道具だ、という、より大きな陰謀論の要となっている。

専門家はこの反ワクチン陰謀論について、ワクチンの仕組みへの無理解に端を発している、と指摘。この主張が誤りであることはすでに随所証明されており、関連記事すぐに見つかる。

反ワクチン派インフルエンサーは、この危険から自分の身を守るためにソーシャルディスタンスを取り入れよう、と仲間の反ワクチン派、そして反マスク派(現時点で、どちらか一方に属している人間は高確率で他方も掛け持ちしている)に呼びかけている。ソーシャルディスタンスといえば、彼らがずっと否定してきた対策だ。

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COVID-19関連の陰謀論拡散に主要な役割を果たしていると言われる反ワクチン派のシェリ・テンペニーは、最近行われた反ワクチン派のライブ配信で「ワクチンを打った人間からは一生距離を置くべき」と述べた。

また、ワクチン済みのひとは全員隔離すべきだと訴えている反ワクチン派の著名人もいる。「この〈毒〉を打った人間からは、未接種の人間に感染する何かが発散されている」と別のライブ配信で語ったのは、ニューヨークで小児科医として働く反ワクチン派のラリー・パレフスキー。彼は、「ワクチン接種を受けたひとの腕に〈ワクチン接種済み(ワクチンではないが)〉というバッジをつけてほしい、そうすれば我々は、彼らを街で避けたり、社会のあらゆる場所で近づかないようにすることができる」と訴える。

反ワクチン/反マスク派が(しぶしぶ)受け入れているのはソーシャルディスタンスだけではない。陰謀論者の中には、もしかして今まで忌み嫌ってきたマスクという存在が救世主になるのでは、と考えているひとたちもいる。4chanの掲示板では、とある当惑した投稿者が仲間の4chan住人たちに、「ワクチン済みの人間はmRNAを撒き散らすので、近くにいるときはマスクをした方がいい?」と質問していた。

また、Twitterではある投稿者が、「ワクチン済みの人間の撒き散らしに関する情報を注視するようにしている」と書いていた。「ワクチン済みの人間から身を守るためには、僕の家族もマスクを着けた方がいいのだろうか?」

前述したとおり、この反ワクチン陰謀論には全く根拠がない。だが、ワクチン懐疑派はリアルな恐怖心を抱いている。そして、恐怖があるところにはカネが生まれるのが定石だ。

最近、カナダの〈独立市民(sovereign citizen)〉で反ワクチン派の代表的人物、そしてCOVID-19の陰謀論動画「Plandemic」の中心ともなったジュディ・マイコヴィツが、ライブ配信で反ワクチン陰謀論の詳細を解説した。彼女は、空気感染する〈ウイルス〉から身を守るため、コロイド銀マスク(※コロイド銀:反ワクチン派やホリスティック信者たちから長らく支持されてきたサプリメント)を着用していたら飛行機から降ろされたと語った。

「どうして銀マスクをしていた私が飛行機から降ろされたと思いますか?」とマイコヴィッツは問うた。「その理由はね、私が〈体調を崩すことがない〉からですよ。みなさん、私が不健康にならないからです」

彼女の言動からわかるのは、コロイド銀マスクがCOVID-19のようなウイルスだけでなく、ワクチン接種済みの人間が撒き散らすとされるものも防ぐ唯一のマスクであるということだ。ありがたいことに、コロイド銀マスクはホリスティックストアで購入可能である。

ただ、反ファシストの研究者で、マスクに関するマイコヴィッツのスタンスについてツイッターでいち早く指摘したドリュー(アンチからの攻撃を懸念し名字は非公開)は、VICE World Newsの取材に対し、反マスク派もコロイド銀マスクは使用しないだろうと述べた。

「もし彼らがマスクを着用するなら、この1年彼らが使ってきた〈自分の身体のことは自分で選ぶ〉とか、〈恐怖より事実を〉、〈口輪を外そう〉などといったレトリックがすべてバカバカしく見えることになる」

それでも反ワクチン陰謀論の勢いは止まらない。最近ではマイアミで、ワクチン接種済みの教師と、ワクチン未接種の生徒との交流を禁止した私立学校があった。また4月には、ブリティッシュコロンビア州のケロウナにあるゴールドショップの店主が、ワクチン接種済みの人体からの〈撒き散らし〉を恐れ、ワクチン済みのひとは入店禁止、という張り紙をして問題となった。同店主は顧客のマスク着用も禁止し、「顔のオムツを下げろ」と注意する張り紙もしていた。

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陰謀論者界隈では〈撒き散らし〉にどのように対処するか現在進行形で検討されており、つまり反マスク派全員がマスクをするようになるわけではない。

カナダの看護師と思われる女性は、YouTubeの反ワクチン派に向けたまとめ動画でこのように語った。「マスクも意味がありません。もしワクチン接種済みの友人や家族の周りでマスクをしようと考えているのであれば、それはCOVID-19の予防のためにマスクを着けるのと同じ。マスクなど通り抜けてしまいます」

偽情報を拡散しているとしてFacebookから追放された反ワクチンの陰謀論サイト〈Natural News〉のとある記事は、「スパイクタンパク質の感染から身を守るのに、マスクは役立たない」と主張。

その代わり、唯一の対策として「松葉茶」を推奨している。

マック・ラムルーのTwitterはこちら