もしあなたが精液アレルギーだったら?

精液アレルギーをもつひとは、どのようにセックスするのだろうか。
AN
translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
couple with semen allergy, 精子
Collage by Cathryn Virginia | Photos by Track5, PansLaos, and Fotograzia via Getty Images

パートナーの精液に触れた数分後、灼熱感とかゆみを感じ、精液が付着した箇所が赤く腫れるひとがいる。この反応を何らかの感染症の初期症状ではないかと恐れるひとが多いが(実際、性感染症のよく知られた症状でもある)、それは〈精漿過敏症〉、一般的に精液アレルギーと呼ばれる疾患かもしれない。※精漿(せいしょう)とは精液の精子以外の液体部分のことだ。

最近の分析によると、米国内では少なくとも4万人の女性が精液アレルギーを起こしているとされる。しかし60年前に医師により初めて報告されて以来、詳細な(そのほとんどが極度の)症例研究はごくわずかしか発表されてこなかった。男性で精液アレルギーと確認されたケースはないが、男性も自分自身の精液に対するアレルギーを発症し、全く異なる症状を示す可能性はあると考える研究者もいる。

精液を構成する十数種類もの要素のうち、何がアレルギーの原因になっているのかは定かではない(精子ではないことは確かだ)。またいつまでも過敏なままのひともいれば、時間が経つにつれ、またパートナーが変わるにつれ症状に変化が現れるひともいるが、その理由についても解明されていない。専門家はホルモンの変動や、さまざまな食事・ライフスタイルが精液に与える影響によりそれらの変化が生まれると推測しているが、それを証明するエビデンスは不十分である。

Advertisement

わかっているのは、精液アレルギーが人々の性生活に多大な影響を与えるということだ。アレルギーを引き起こす精液(ガマン汁にも)に直接接触するのを避けるため、習慣を変えているという報告がしばしばなされている。彼らはコンドームを使いたくない時も装着し、顔射やフェラチオは控える。アレルギー自体は生殖能力を阻害するものではないが、症状が出るのを避けようとすることにより、妊娠の難しさが増す可能性はある。なかには、全身性じんましん、めまい、胃の不快感、あるいはアナフィラキシーなど重篤な症状が生じるひともおり、それらに対する不安が、セックスを避けたり、セックスをあまり楽しめなくなったりすることに繋がる。

この疾患の数少ない専門医は、確立されたアレルギー緩和療法で治療を行う。しかし恥ずかしさから治療を受けないひとも多い。治療を求めても、専門医が極めて少ないために医療提供者からしばしば見捨てられたり、誤診されたりする。また専門医に相談しても、特定の治療法が誰にでも効くというわけではない。適切な治療にアクセスできないこと、スティグマ、そして治療の難しさ。それらにより精液アレルギーは、有意義な指導もないまま一生耐え忍ばなければならない疾患となってしまうことが多い。

VICEは、精液アレルギーをもつ人々がどのようにセックスをしているのかを知るため、10年以上前に精液アレルギーと診断されたルーシーに話を聞いた。彼女は、長く付き合っているパートナーとふたりでどんなことに直面したか、どのように治療を試みたか、精液アレルギーにより生じた自分たちの性生活の困難にどのように対処してきたかを教えてくれた。

VICEはルーシーのプライバシー保護のため仮名を使用しています。このインタビューは長さや読みやすさのため編集されています。


⸺自分が精液にアレルギー反応を起こすことを初めて知ったのはいつですか?

ルーシー:20代前半のときです。ある男性とセックスをしていて、ゴムが破れたんです。それで中出しされたんですが、それが人生で初めて精液に直接触れた瞬間でした。すぐに猛烈なヒリヒリ感と赤みを感じました。腫れていたかは覚えてないんですけど、とにかく外陰部が燃えているみたいな感覚がして、精液を外に出したくてたまらなかった(笑)しかもコンドームが破れていたことでパニックでしたし。

すごく変な感覚で、ストレスフルな体験でした。でも私には医学の知識が少しあり、セクシャルヘルスについてはよく知ってたんです。だから性感染症ではないなとわかりました。「待ってこれおかしくない? まるでアレルギー反応みたいじゃない?」と思いましたね。

⸺実際にアレルギーだったとわかるまでどれくらいかかりました?

少し時間がかかりました。当時の私は基本的に男性以外のパートナーが欲しいと思っていたので、あのあとも当分は心配いらないと自分に言い聞かせ、考えることを二の次にしてました。男性とのセックスは、少なくともゴムなしのセックスはしばらくしないと思っていたので。

そのおよそ1年後、今の夫となる男性と付き合いはじめ、やがて私たちはゴムを使うのをやめることにしました。私は「実はこのステップにいくのは不安なんだよね、1回精液にアレルギー反応みたいなのが出たことがあるから。もしかしたらまた同じような超不快な、あるいはもっとひどい反応が出るかもしれなくて怖い」と言いました。彼はとても思いやりをもって対応してくれました。結局膣外射精を試してみようということになったんですが、先走り汁には触れることになるので、ゴムなしのセックスではいつもひりつく感覚がありました(しかも外出しは避妊法としてはよくないですよね。でも当時は別の避妊法をしていたので)。彼が引き抜くときに自制できずに私の肌に精液をかけてしまう心配はあったんですけど、結局それについては一度も問題が起きなかったです。

Advertisement

それでも、いずれは私のアレルギー反応が悪化してアナフィラキシーを起こすかもしれない、という不安はありました。フェラチオをしなかったのもそれが大きな理由です。今もそう。セックスで自分が死ぬ可能性があることにかなりビビってました。「もしかしたら女性のパートナーとだけ付き合ってたほうがいいのかも」と思うくらい怖かったんです(笑)

⸺この持続的な問題は、ご自身のセクシュアリティについての考え方にどのような影響を与えましたか?

私はとても実利的な人間なので、物事には必ず理由がある、あるいはあなたに何かを伝えようとしている、なんて思いません。それでも、男性と付き合うのをやめたら人生がだいぶ楽になるな、とは思いました(笑) でもそのときには彼のことを愛してたので。長く一緒にいることになるのかも、と思ってました。実際、初めて精液に触れたときのことはありがたく思ってるんです。最初から、今のパートナーにだけアレルギーが出るんじゃなくて、あらゆる精液のアレルギーなんだとわかったから。

私はアレルギーの専門医を探すことにしました。大都市から離れて暮らしていたので、なかなかいませんでした。とにかく電話をかけまくりましたね。ご想像どおりこんな話をするのは気が引けたんですけど、「そちらの先生は精液アレルギーを扱ったご経験はありますか? 多分私がそうなんですけど、何かできることがあるのか知りたいんです」と聞いたんです。

そしたらある病院が「はい、ありますよ、ぜひ来てください。パートナーの精液のサンプルもお持ちください」って。退勤後にそのまま向かえる時間に予約をとりました。でも、それってつまり私のパートナーの精液を職場に持っていかなきゃいけないってことで。冷蔵庫の自分のお弁当の隣に置いておきました。

電話口では感じはよかったものの、お医者さんが私のことを真剣に診てくれるのかどうか不安でした。あと、実際に精液アレルギーだったらどうなるんだろうという不安もありました。病院では、私の腕でスクラッチテストが行われました。針で肌に傷をつけ、ヒスタミン、生理食塩水、そしてパートナーの精液をそれぞれ付着させたんです。正直「私がおかしいのかも、こんなので陽性反応が出るわけない」って思いました。でも15〜30分経つと、ヒスタミンと精液の部分だけが腫れたんです。

私は元々色白で、引っかかれたから赤くなったんだ、と自分を納得させようとしました。でも看護師さんが私の腕を見て言ったんです。「陽性ですね」って。

私は「うわ、最悪だ」って言いました。

⸺実際に精液アレルギーと知ってどうしましたか?

女性の先生が、実は自分は精液アレルギーを扱ったことはない、と明かしたんです。治療法を開発した人がいるらしい、と私が先生に言うと、それを試してみようか、と先生は答えました。こうして私たちは膣内段階チャレンジを行うことにしました。先生は、「じゃあ次の予約のときにたくさん精液を持ってきて。あとは私たちに任せて」と言いました(笑)

パートナーは乗り気でした。彼は私の命を奪う心配なく、ゴムなしでセックスできるようになりたいと思っていたので。こうしてふたりでその処置に臨みました。私は先生のクリニックで、スターラップ(手術台用足掛け)に乗りました。アレルギー専門医がこんなのを持っているとは知りませんでした。おかしいですよね(笑) でも私はオープンな性格なんです、特に医療の場では。だからとにかくやってみました。処置は半日かかりました。希釈した精液を30分おきに投与するんですが、投与の仕方もめちゃくちゃでした。カニューレを使い、重力に逆らって私の膣のなかに押し込むんです。全部は入ってませんでしたよ。でも私にとってこれが初めての経験だったので、まあこんなもんなのかな、と思ってました。処置が終わると先生はこう言いました。「治ってるかもしれませんが、定かではありません。24〜48時間以内にコンドームなしでセックスして確かめて、その結果を教えてください」

Advertisement

⸺それでどうなりました?

処置のあとはふたりともそんなにセックスがしたい気分になれなかったんです。成功するかどうかにかなり重きを置いていたので。だからしばらく先送りにして、制限時間ギリギリになってセックスをしました。処置を終えた自分たちへのごほうびとして、すてきなディナーを予約していたんですけど、その直前に。ふたりとも緊張していました。彼が射精した直後に何も起こらず、私はうれし涙を流しました。でもそれから1時間もしないうちに、私にしてはめずらしく頭痛が始まったんです。私たちはエピペン(アナフィラキシーの症状が出た時に使用し、症状が悪くなるのを抑えるための補助治療剤)があることを確認してから、まず抗ヒスタミン薬を服用し、大丈夫だと自分に言い聞かせました。それから車に乗って、ディナーのお店に向かいました。すると具合が悪くなってしまったんです。呼吸が苦しくて。パニック発作なのか何なのか、自分でもわかりませんでした。

結局、病院に行きたいと言いました。病院に向かう途中、私は会話もできなくなり、喉が締まったような感覚に襲われました。それでもどうにか「路肩に車を寄せて、太ももにエピペンを打ってほしい」と伝えました。彼がそうしてくれたので、すぐに具合は回復しました。それでも検査してもらうために救急科に向かう必要がありました。私たちが暮らす小さな町の病院に歩いていくと、看護師さんにどうしたのか、と訊かれました。ちなみにその看護師さんは大学時代から知ってるセクシーな女性で、明らかにレズビアンだったんですけど(笑) 私は答えました。「アレルギー反応が出てしまったみたいで」

彼女は「何のアレルギー?」と聞いてきましたが、私は泣きながら、金切り声で叫びました。「精液の!」

それが起きたあと、パートナーと私は決めました。二度と私の近くに彼の精液を置かないって。コンドームを使ったり、必要なことは何でもしました。でも子どもをもちたいと思うようになり、専門家による減感作療法を受けたんです。

⸺そして成功したわけですね。

はい。5年後、私が試した処置を開発した先生に会いにいき、もう一度膣内段階チャレンジを行いました。私はかなり懐疑的でしたけど。その先生はカニューレは使いませんでしたね(笑) そして成功したんです。すっかり治療され、パートナーの精液と触れても何の反応も起きなくなったんです。でもそれで終わりじゃありませんでした。

先生は、大体週2回はパートナーの精液と接触する必要があると言いました。みんながアレルギーの注射を定期的に打つのと同じように、私は精液注射が必要なわけです(笑)

当時の私たちは長年連れ添い、ふたりとも30代になろうとしていました。それに、お互い仕事で出張が多かった。だから「そんなことできるか?」って感じで。でも先生は年配の男性で、みんなセックスが大好きだと思ってるようなひとだったから、「まさか! こんな処方をしたら普通はみんな喜ぶのに」って。

私は、アナルへの射精でもOKか、口のなかはどうか、膣以外の射精でも効果は継続するか、みたいな質問をしたんですけど、先生はその答えを知りませんでした。ただ、膣以外の接触でも効果があるというエビデンスはない、と言うばかりで。膣の粘膜は他の組織とは違うことは知っていたので、効果があるかわからないのに他の場所に期待をかけて試すことはしたくないと思ったので、先生の言葉に従いました。

Advertisement

⸺医療上頻繁にセックスをする必要があったものの、ふたりともそこまで乗り気じゃなかったということですが、どのように対処したのでしょうか?

できるかぎり期間を延ばしました。万が一のときにはエピペンもあったので。セックスや別の手段を使って、5日に1回精液と接触しました。正直なところ、セックスを通しての接触はあまりなくて。パートナーが決まったコップ、もちろん来客用ではないコップ(笑)に射精して、それで私が内服薬用のシリンジを使って膣内に注入します。

ふたりにとって心地の良いものではありません。飲んでいる薬が性欲を減退させたりするときには、彼が5日おきにちゃんと射精するのは難しい。継続しなきゃというプレッシャーは大きいです。次のセックスのときに気道がふさがって、私が死ぬ可能性があることも彼はわかっていますし。そんなことになったら本当に最悪だけど。私たちはいっしょにセラピーを受けてこのことについて話し合ってきたけど、やっぱりいまだに悩んではいます。でももう約7年経ったし、正直慣れてきました。

⸺性生活に関するこの医療的な対処法は、あなたの性欲、あるいは全般的なセックスへの関わり方に長期的な影響を及ぼしていると思いますか?

もちろん。でも性生活に影響するのはこれだけじゃなくて、他にも慢性的な疾患を抱えているんです。ふたりとも年をとってきて、もう20代じゃない。それに小さな子どもを抱えていると、常にくたくたです。精液アレルギーだけじゃありません。いろんな要因が性生活の足枷となってます。

⸺それらにはどう対処していますか?

私たちは立ち直りが早いんです。いいコンビだと思います。でも妊娠を考えなくなる時期が待ち遠しいです。そうしたらこれも終わるので(あともうひとり子どもが欲しいと思ってて)。それに私たちふたりとも、もっと研究が進むこと、誰かが他の対処法を見つけてくれることを願っています。