地球の生態系に張り巡らされている菌類ネットワークと同様、マジックマッシュルームも21世紀の文化と複雑に絡み合っている。主な幻覚成分シロシビンによって定義されるマジックマッシュルームは今や〈第二の大麻〉となり、知覚できないほどの量を定期的に摂取する行為(マイクロドージング)は、幻覚剤を試す最初のきっかけとして一般化している。その一方で、シロシビンがうつ病、不安障害、トラウマに劇的な効果をもたらすことを示唆する事例や科学的証拠が相次いで報告されるとともに、標準量のマッシュルーム摂取のメリットも、セラピスト、研究者、アマチュアの間で注目を集めている。
私自身も、ジャーナリストかつ幻覚剤を扱う『DoubleBlind』誌の共同ファウンダーとして、5年以上シロシビンについて報道し、もっと長い期間にわたって、自らの体験を通して実験を重ねてきた。さらに科学者、研究者、セラピスト、政策マニア、弁護士、シャーマンに取材し、マジックマッシュルームの歴史や安全な使い方、潜在的な効能とリスクについて話を聞いた。
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シロシビン・グミが健康食品店の定番商品となる未来は着々と近づいている。今回VICEは、マジックマッシュルームの完全ガイドを作成。マジックマッシュルームの正体から、人体に与える影響、神秘的な幻覚体験に必要な準備まで、徹底的に解説する。
マジックマッシュルームとは何か?
この世界には数千種類ものキノコが存在する。有毒のものから希少種、医学的効果や不思議な力をもつ品種まで、その特徴は多岐にわたる。幻覚作用のある種は基本的にマジックマッシュルームやシュルームと呼ばれ、幻覚成分であるシロシビンを含むことが多い。マジックマッシュルームの種類は約180種類で、そのうち少なくとも60種がシビレタケ属に分類される(例:LSDの原料となる麦角菌)。効能や効果は種類によって異なり、同じ1グラムでも全く異なるトリップ体験を引き起こす可能性がある。
マジックマッシュルームはどこから来たのか?
マジックマッシュルームは数千年まではいかずとも数百年にわたって、中央アメリカからシベリアまで世界各地の文化で、儀式もしくは医療目的で使用されてきた。アステカで使われていたナワトル語は、これらのマッシュルームを〈テオナナカトル(teonanacatl:神の肉)〉と名付けた。
現時点でわかっている限りでは、オアハカ州のクランデラ(女性治療師)、マリア・サビーナ(Maria Sabina)が意図せず西洋にマジックマッシュルームを持ち込んだとされている。1955年、彼女はアマチュアの菌類学者R・ゴードン・ワッソン(R. Gordon Wasson)が神聖な治療の儀式に参加することを許可した。ワッソンがその体験を『タイム』誌の記事で紹介すると、大きな反響を呼び、科学者、哲学者、快楽を追求する人びとが、同様の体験を求めて次々に巡礼の旅に出た。最近の学術研究は、当時の反響が引き起こした損害を指摘している。「先住民族の観点からすれば、シロシビンの研究と医療品開発は、採取、文化の盗用、バイオプロスペクティング(生物資源探査)、植民地化を意味する」とある論文は述べる。
1971年、急成長を遂げた米国の幻覚剤研究分野は、ついに一線を越えたとみなされた。リチャード・ニクソン大統領による麻薬戦争の結果、シロシビンは規制物質法のスケジュールⅠ物質に指定され、ヘロイン、大麻、LSDとともに非合法化された。この分野の研究が復活したのは、ここ10年ほどの話だ。シロシビンは今、ジョンズ・ホプキンズ大学やニューヨーク大学などの機関の研究に使用され、科学者たちはうつ病、末期患者の終末期の不安症、摂食障害、依存症などの幻覚剤を使用した心理療法に着目している。また、デンバーやオークランドなど、〈Decriminalize Nature〉のキャンペーンが成功している州では、シロシビンの非犯罪化が進んでいる。
マジックマッシュルームの摂取方法とは?
シロシビンの標準用量は約3.5グラムで、一般的には〈8分の1オンス〉として知られている。とはいえ、たったの0. 5グラムでシロシビンの作用が現れることもある。作用が現れない、標準的なマイクロドーズは約0.25グラムで、マクロドーズ(もしくはヒロイックドーズ)の標準用量は約5グラムだ。まずはマイクロドーズから1グラムの間の量から始め、幻覚体験の感触を掴むビギナーもいれば、トリップ体験とはどんなものかを理解するためにヒロイックドーズに直行するひともいる。
そのまま食べてもいい?
シロシビンを摂取する方法はさまざまだが、端的に言えば答えは〈イエス〉だ。有機材料──つまり乾燥させたキノコ──を摂取する場合は、そのまま食べたり、粉にしてお茶にすることが多い。レモン果汁に浸して効果を強めるひともいる(レモン・テキングと呼ばれる)が、その科学的根拠はほぼ存在しない。マイクロドーズ用の錠剤をつくりたいなら、粉にひいてカプセルに詰めるといい。また、手作りのマッシュルームチョコレートやグミなどの食品を販売している専門店もたくさんある。
〈セットとセッティング〉って何?
セットとセッティングとは、トリップ体験をするひとの精神的・感情的状態と、それを取り巻く背景や環境のこと。マジックマッシュルームの摂取に正解はないが、最善の方法は存在する。コンサートやキャンプで娯楽として使うときも、スピリチュアルな環境で儀式として用いる場合も、もしくはもっと医療的な方法でも、仰向けになって目を閉じ、ヘッドフォンをして(ぴったりな音楽を厳選して)、トリップ体験をしていない誰かの手を握るのが一般的だ。
マジックマッシュルーム初心者なら、ガイドか〈トリップシッター〉(プロのセラピストでも信頼できる親友でもいい)に付き添ってもらうといい。そうすれば、トリップ体験中に何か問題が起きても、彼らがあなたを現実へと引き戻し、深呼吸を促し、大丈夫だと安心させてくれる。自分自身について知りたいことや、新たな知見を必要としている悩みなど、目標を定めることも大切だ。一度のトリップ体験ですべてが癒されるとは思わずに、日常に取り入れ、成長や習慣を変えるきっかけになるようなヒントを探ってほしい。
注意するべきは、メンタルの不調に悩んでいる(もしくは家族に統合失調症を抱えるひとがいる)場合は、事前にセラピストに相談してほしい、ということだ。幻覚剤はメンタルヘルスの問題の引き金になったり、悪化させたりする可能性がある。特定の精神状態がまだ表面化していない20代前半のひとは、特に注意が必要だ。
トリップ体験の持続時間はどのくらい? 具体的に何が起きるの?
体験者の耐性、体の大きさ、代謝、消費の手段、前述のセットとセッティングにもよるが、平均的な持続時間は4〜8時間だ。効果が現れるまでは45分ほどかかり、トリップ体験が始まってから2〜3時間頃にピークを迎える。
では、一体何が起きるのか。トリップ体験は人によって大きく異なる。さまざまな感情が波のように順番に、もしくは一度に押し寄せてくる。満足感や恐怖、多幸感、被害妄想を引き起こすこともあり、やる気に満ち溢れるひともいれば、冷静になるひともいる。個人的には、一度の体験で6時間のあいだに前述のすべてを感じたこともあった。忘れてはいけないのは、浮き沈みはあれど、これはドラッグで、その効果は徐々に消えていくということだ。不快感があっても心配しないで。それが永遠に続くことはない。
幻覚や幻聴も一般的なので、カラフルな模様が見えたり、エコーがかかったような音が聞こえても怯えないでほしい。さまざまな肉体感覚(重さ、軽さ、うずき、序盤の吐き気など)が生じることもある。いわゆる〈自我の死〉──脳のデフォルトモードネットワークの活動が減少することによって起こるプロセス──を体験するひともいる。この最中には非常に強い共感が生まれ、自然や宇宙との深いつながりを感じる。自我の死は方向感覚を麻痺させ、危険につながる場合もあるので、ここで改めてガイドかトリップシッターの重要性を強調したい。
トリップ体験で最も重要なのは、恐怖に打ち勝ち、その体験に完全に身を委ね、たとえ何が起きたとしても、それを成長、学び、癒しのチャンスとして捉えることだ。ガイドのなかにはこれを「治療の後に続く」と表現するひともいる。つまり、体験をコントロールしようとせず、マッシュルームが誘う方向に従いなさい、ということだ。
依存性はある?
答えは〈ノー〉だ。このイメージは撲滅するべきだ。「大麻やアルコールのような渇望感に襲われることはありません」とマッシュルーム専門家で、『Your Psilocybin Mushroom Companion』著者のミシェル・ジャニキアン(Michelle Janikian)は説明する。「大量に摂取したとしても、欲しくてたまらない、という状態になることはありません。もちろん、(大量摂取による)とんでもないバッドトリップ体験は二度とごめんだと思うでしょうけどね」。実際、ジャニキアンが指摘するように、アデロールからタバコまで、あらゆる依存性物質を断つためにマッシュルームの使用を希望する人びとを支援する、幻覚剤推進派のリカバリーグループも存在する。
野生のマジックマッシュルームは採取してもいい?
大丈夫だが、十分に注意しなければならない。よく似た毒キノコもたくさん生えている。初心者なら、野生のものをそのまま口にする前に、専門家に相談したほうがいいだろう。マジックマッシュルームは世界各地に自生し、特に湿度の高い季節に増える傾向にある。採集についてはこの記事を参照してほしい。
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