Brandy Melville Xiaohongshu fashion China
The Brandy Melville style has attracted a large following of young Chinese women. Photo courtesy of Deli and Qinggeiwotela

「女子に〈痩せすぎ〉はない」── 痩せることへのプレッシャーに苦しむ中国人女性たち

〈痩せていなければならない〉というプレッシャーが、若い中国人女性を身体的にも精神的にも追い詰めている。

注意:この記事では過食などの描写があり、内容に精神的なストレスを感じる可能性があります。ご注意ください。

中国・上海 ── 会社員として働く26歳のルー・ウェンジュンは、自らの身体を洋梨にたとえた。上半身はいいが下半身、太ももとふくらはぎが太すぎる。身長は165センチ、体重は55キロ。彼女がフォローしているファッションインフルエンサーたちによれば〈ガッカリ〉体型に入る。「いい女は50キロを超えない」というのが定説だ。

〈いい女〉になりたかったルーは、彼女が暮らす河南省鄭州市で、新型コロナウイルス感染症に伴うロックダウンにより外出ができなくなった2020年初頭、その目標に向かってダイエットを開始した。

食事は1日2食。ドイツのフィットネス界のスター、パメラ・ライフのトレーニングを1日3時間行い、洗面所に入るたびに体重計に乗った。体重を落とすにつれ、母親には「きれいになった」、同僚たちには「自己管理ができている」と褒められた。3ヶ月後、ルーは50キロを達成した。

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そして今度は新しい目標として、47.5キロを設定した。

「女子に〈痩せすぎ〉はないんです」と彼女はVICE World Newsのインタビューに語る。「常に痩せたいと思ってる。それが今の、一般的な美意識なんです」

あらゆる身体を受け入れることを指向する運動が世界各地で盛り上がっているが、東アジアの多くの地域ではいまだに痩せている女性が魅力的とされ、研究でも、東アジアの女性は世界の女性と比較して減量に励む割合が高いことが明らかになっている。

中国では、美女の要素は〈白い、若い、細い〉とされている。この美意識は、エンターテインメントやファッション業界を通して数百万人もの若い消費者に常に届けられているが、その美意識が孕む危険性についてはほとんど議論されていない。SNSでは食生活、細い身体、減量法にまつわるコンテンツが関心を集め、それをきっかけに不安障害やうつ、時には命を脅かすような摂食障害を発症する女性も少なくない。

Brandy Melville xiaohongshu

Brandy Melvilleの中国人従業員が、ファッション・インフルエンサーに人気の中国ECサイト〈Xiaohongshu(小紅書)〉に投稿した写真。PHOTO COURTESY OF QINGGEIWOTELA AND SARAH.YANG

インターネットには、超細身を理想とするコンテンツが溢れている。ショート動画アプリには人間の顔を小さくし、脚をウソみたいに長くするフィルター機能が装備され、セレブやインフルエンサーは、A4用紙でウエストを測る〈A4チャレンジ〉や鎖骨にコインなどを乗せる〈鎖骨チャレンジ〉、子供服を着こなす〈子供服チャレンジ〉など、SNSで話題となるチャレンジに参加して自らの身体をアピールしている。

また、若い女性たちはアルゴリズムにより、痩せようと呼びかけるスローガンや食事制限法などを常に目にすることになる。ルーも、中国版TikTokの抖音(ドウイン)で、「空腹のまま眠ることは美しい人生の始まり」「自分の体重も管理できないで、どうやって自分の人生を管理するの?」などといったメッセージを絶え間なく目にしていたと語る。

「服が小さすぎるんじゃなくて、私が大きすぎる」

小さな服を身に着けること自体がファッションにもなっている。イタリアのファストファッションブランドのBrandy Melville(ブランディー メルビル)は、「ワンサイズで大体の人が着られる」という方針でワンサイズ展開を行なっているが、それがこのブランドの極小サイズの服を着ることができる、選ばれし女性たちのコミュニティを生み、SNSで世界的なトレンドとなっている。その女性たちは中国で、〈BMガールズ〉と呼ばれている。

今年9月に〈Insider〉がBrandy Melvilleの北米事業について報じた記事によると、〈白い、若い、細い〉を満たさないひとに対する差別問題が噴出しているそうだ。なお同社は、VICE World Newsの取材依頼には応じていない。

Brandy Melvilleが中国に初出店したのは2019年。上海の繁華街にオープンした店舗は、先日の土曜の午前中も若い女性顧客で賑わっていた。その多くが、クロップドシャツに、レトロなカリフォルニアスタイルのタンクトップとスカートを合わせていた。まるで子供服のように見える。

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BM Shanghai

極小サイズの服を売り出していることで知られるBrandy Melvilleは、中国でトレンドとなっている。PHOTO: VIOLA ZHOU

​​江蘇省から観光に来た25歳のリー・ファンは、スーツケースを持って店舗を訪れた。彼女はBrandy Melvilleの服を着た女性たちの写真をSNSで見て、その〈チュンユー(無邪気でセクシー、という意味の中国ファッション用語)〉スタイルに心を奪われたのだ。

しかしその日、リーは何も買わなかった。サイズが合わなかった、と彼女は言う。「服が小さすぎるんじゃなくて、私が大きすぎるんです」その代わり、彼女はもっと体重を落とそうと決心した。リーは現在158センチで50キロだが、45キロが理想だという。「他の子がみんなすごく細いから、モチベーションが上がります」と彼女は語る。

中国で広く使われているSNS、Weiboでは、女性セレブたちの細さに驚嘆するトピックが定期的にトレンド入りする。最近では、〈ディリラバのウエスト〉〈ティファニー・タンの脚〉〈ラレイナ・ソンのWHR(※ウエスト・ヒップ比)〉〈妊娠7ヶ月のジーナ〉などが話題になった。最後の〈ジーナ〉とはピアニストのジーナ・アリスのことで、妊娠中にもかかわらず細身を保ち続ける彼女の姿は、インターネットを騒がせた。

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社会現象にまでなった公開オーディション番組、『PRODUCE 101』のシーズン3の参加者たち。東アジアでは、女性有名人は肌の色が白く、細身であることが求められる。PHOTO: CHEN ZHONGQIU/VISUAL CHINA GROUP VIA GETTY IMAGES

セレブの食生活もよくバズる。パンなしサンドイッチの作り方のチュートリアル動画を公開する女性俳優や、炭水化物をグレープフルーツで摂ることで10日で3キロ痩せたという女性俳優、麺のスープに浮かぶ脂を除去するための吸油シートの使い方をVlogで紹介した男性俳優もいる。

「細い身体こそが理想だという考えを広め、女性を自己対象化へとかきたてるのに大きな役割を果たしているのはメディアです」と指摘するのは、香港中文大学深圳校でボディイメージと摂食障害を研究するジンボ・ヘ助教授だ。「しかし公衆衛生機関やメディア業界は、それにより引き起こされる危険性をまだ認識していません」

ヘ助教授によると、〈細い=美しい〉とする価値観は、工業化によって西洋から中国へ伝わった。中国が貧困していた時代は、〈細い=栄養不足〉と見なされていた。研究によると、細身信仰は経済発展に伴ってまず西洋世界で一般化し、それから様々な文化、消費財を通してアジアでも広く根付いたのでは、と推測される。おそらく、女性を一般的な美の規範に従わせようとする男性支配的、集産主義的な伝統が、細身へのプレッシャーをいっそう強めているのだろう。

痩せている女性が魅力的、とする美しさの狭い定義は、SNSの普及によりこの10年で子供、そして中国の農村部など、より多くのひとびとに影響を与えるようになった。

中国でのBrandy Melvilleブームは、抖音、そしてInstagramとECサイトが一体化したような中国の人気アプリ〈Xiaohongshu(小紅書)〉を通して、昨年、中国東部の浙江省に暮らす大学生のワン・イーティンにも届いた。彼女もこのブランドのファンだが、多くのBMフォロワー同様、自分は太りすぎていて着れない、と感じたそうだ。

ワンは身長166センチで体重50キロ。WHO(世界保健機関)には痩せ型だと分類されるであろう彼女だが、広く拡散されている#BMGirls の身長と体重の組み合わせを示すチャートによると、彼女はBrandy Melvilleの服を着るには3キロ重いらしい。

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ワンが初めて減量をしたのは高校生の頃。女子生徒たちはみんな夕飯を抜いて、〈デトックス〉ダイエットに励んでいた。大学生になると、ルームメイトたちが細身で、彼女たちは体型維持のため、毎日体重を測っていた。ワンはルームメイトのひとりに、妊娠してるみたいなお腹だね、と言われた。

そこで彼女は、1日の摂取カロリーを800カロリーに抑え、自分を追い込んだ。しかし、時折起こる過食や、痩せなければならないというプレッシャーが彼女に大きな不安を与えた。街で道行く女性たちを眺めては、どうして彼女たちみたいに細くなれないのだろう、と悩んだ。数ヶ月後、彼女は拒食症と診断される。

「女子に〈痩せすぎ〉はない」

21歳の彼女は、現在うつと摂食障害の治療中だが、他の女性の細い脚を眺めてうらやましさを感じることを止めるのは難しい、と語る。「みんながダイエットをしているのが現状です」と彼女はVICE World Newsに語る。「〈白い、若い、細い〉を理想とする価値観は、私の骨に刻まれてしまっている」

今や中国の若年層全体、特に少女の多くが、自らのボディイメージに不満を持っている。広州市の小学生を対象とした2018年の研究では、8〜12歳の子どもの78%が自らの体型に満足していない、と答えた。健康体重の子どもたちのなかでも、男子は「自分は痩せすぎ」と感じ、女子は「自分は太りすぎ」と認識している傾向が強かった。

また、2016、17年に女子大学生を対象に実施された調査では、回答者の73%が、過去半年以内に減量のために行動を起こした、と答えた。さらに、痩せ型の回答者の半数以上が、もっと細くなりたいと望んでいた。

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今年5月、上海で行われた反ボディシェイミングのデモで涙を流す女性。PHOTO: HECTOR RETAMAL/AFP VIA GETTY IMAGES

前述のルーも、似たような道を辿った。47.5キロを達成したあとも、彼女はダイエットを続けた。

しかし、家族や友人には気づかれなかったが、彼女の超過酷な食事制限は過食症につながった。間食を始めると自分の食欲をコントロールできない。ミックスナッツを一気に1.1キロ食べ尽くしたこともあれば、コストコの20センチのティラミスをほぼ完食したこともある。立ち上がれないほど満腹になる。

過食をすると、強い罪悪感と羞恥心を感じた。その後は、摂りすぎたカロリーを断食や無理なトレーニング、より厳格な食事制限で消費しようとした。運動アプリをダウンロードして、口にしたすべての物のカロリーを記録した。彼女が慎重に管理している食事に、一度母親が誤ってゼリーを2つ追加してしまったことがあるのだが(それは10キロカロリーにも満たない)、そのときは激しく落ち込んだ。

2020年の夏、ルーの体重は46キロになった。体力が落ち、生理は止まった。それでも、誰も彼女が問題を抱えているとは気づかなかった。両親にはあまり痩せすぎないよう注意されたことはあるが、大体のひとが彼女のことを、たまに大食いをする細身の女性だと思っていた。

「どうしたら普通のひとたちは摂食障害に気付くんだろう?」と彼女はいう。

摂食障害は長らく西洋文化の現象だと思われていた。これまでにダイアナ妃やテイラー・スウィフト、レディー・ガガなどの有名人が、摂食障害に苦しんだことを告白してきた。

中国では、体重管理に伴う精神的、肉体的な負担について、細身のセレブたちが語ることはほぼない。ヘ助教授によれば、中国で摂食障害に苦しむひとびとは数千万人にのぼるとされているにもかかわらず、摂食障害専門の医療機関は北京と上海の2ヶ所しかない。

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中国新聞周刊の記事によると、上海精神衛生センターでは、2002年に1件だったの摂食障害の患者数が、2019年は2700人以上に増加している。しかし、認知度の低さや、精神疾患にまつわる強固なスティグマが邪魔をして、専門家に相談することができていない患者がほとんどだ。

自らの体験をインターネット上で発信する女性たちは、食事制限や過食、排出行動(パージング)、羞恥心、うつなど、同様の体験をもつひとびとからたくさんのメッセージを受け取ると言う。摂食障害についての知識がインターネット上で広がるとともに、コミュニティに集まるひとも増えている。

過食症の治療を受けている25歳のジャン・シンウェンは、自らの減量や摂食障害との闘いを描いた短編ドキュメンタリーを発表し、コミュニティのアイコンになった。彼女は、驚くほど多くのひとびとから、助けを求める連絡が届いたという。その多くが女性の摂食障害患者で、そのなかには小学生もいた。

今年6月、彼女は上海で展覧会を開催した。そこでは、摂食障害から回復したひとびとが、アート作品を通して自らの物語を語った。そのなかには、キャンディひとつを描いた油絵があった。「キャンディひとつを何の心配もせずに食べたのはいつだったか、思い出せない」と絵の作者は語る。「子どもの頃に戻って、おいしいキャンディを食べたいです」

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3年前、摂食障害に苦しんでいた頃の写真を見せるジャン・シンウェン。PHOTO: HECTOR RETAMAL/AFP VIA GETTY IMAGES

世界では、細身の身体やダイエットの推進に加担する企業には圧力がかかるようになってきた。最近行われたWall Street Journalの調査によると、Instagramは十代の少女たちのボディイメージの問題を悪化させ、摂食障害につながっているとして非難されている。Victoria’s Secretは批判を受けて、今年、様々な体型やサイズのモデルを起用したリブランディング・キャンペーンを打ち出した。また、Pinterestは主要SNSプラットフォームとして初めて、ダイエット広告を全面的に禁止した。

中国では、インターネット上でフェミニストから声が上がるようになり、〈白い、若い、細い〉の価値観への反発が見られるようになっている。たとえば〈漫画腰チャレンジ〉に参加した有名女優が謝罪を余儀なくされたり、細身の女性が勢ぞろいする映画ポスターも非難された。人気スタンドアップコメディ番組の『The Roast』では昨年、双子コメディアンのヤン・イーとヤン・ユーが、Brandy Melvilleは入口に小さいサイズの電気柵をつけて、普通体型のひとたちが入れないようにすればいいのに、というジョークを放っていた。

しかし、いまだメインストリームのメディアを支配しているのは痩せた身体のイメージだ。今年5月、Brandy Melvilleは北京のトレンド発信地、三里屯に中国2店舗目をオープン。SNSの投稿によれば、試着室に入るのに長い行列ができるほど大盛況だったようだ。

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米国のBrandy Melvilleと同様、中国でもこのブランドで働くこと自体が名誉だ。中国人従業員はほとんどが若く、細く、白い。彼女たちは店舗での業務をSNSに投稿し、自らが#BMstyle のインフルエンサーとなっている。

2020年末にどうにか暴食をやめたルーにとって、Brandy Melvilleのコンテンツは摂食障害に苦しんだ過去を思い出させるものでしかない。「細くなるために、とてつもない努力をした」と彼女は語る。「そこから抜け出すためには、とてつもなく苦しまなきゃいけない」

ルーはスマホからカロリー計算アプリを消し、毎日体重を測ることをやめた。彼女の小紅書ページには、自分が過食症サバイバーであること、そして二度と減量をしないという誓いが、他のひとへの戒めとして記載されている。

しかし、女性たちに自分は太りすぎだと常に思わせるような美容業界や、遍在するダイエット文化に対抗するのは不可能だ、と彼女は感じている。「女の子たちは、体型で自分を判断しています」とルー。「毎日新しい誰かが、その罠に飛び込んでいるんです」

自分が、あるいは周囲の誰かが摂食障害に苦しんでいるときは、お住いの自治体の保健所や保健センター、精神保健福祉センターにご相談ください。

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