この記事はVICE Germanyに掲載されたものです。
私はVICE Germanyに勤めているが、いまだに大麻の魅力がさっぱりわからない。うちの編集部は大麻について600本以上の記事を出してきたので、これまでの人生でジョイントを2ふかしくらいしたことはある。感想はというと、全然ダメだった。大麻は私にとって決して魅力的なドラッグではなかった。むしろ、不快感を覚えたほどだ。ハイになったひとは話すスピードが遅くなり、汚れたソファの上で生活する……。少なくとも、それがポップカルチャーと政治家から得た知識だった。
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しかし、時代は変わりつつある。ドイツ政府は娯楽目的の大麻合法化に向けて動き出した。何度か後退はありつつも、法案は成立に向かっている。大麻合法化によって、国内でさまざまな変化が起きるだろう。退勤後のビールが退勤後のジョイントに変わるひともいるかもしれない。そしてすでにマリファナを吸っている450万人のドイツ人は、隠れて吸う必要がなくなる。
私もそろそろ大麻の普及に備え、このドラッグにしかるべきチャンスを与えるべきだ。世界の大都市のなかには、駐車場よりも大麻のほうが簡単に見つかるところだってあるのだから。
今年3月上旬、私はシュトゥットガルトに程近いドイツ南部の町エーバーバッハの屠殺場の跡地に降り立った。あらゆる方向から監視カメラで見張られながら、24センチの厚さのコンクリートの壁に近づいた。この壁の中では、現在は動物が屠られる代わりに、植物が栽培されている。農園の所有者はドイツに3件しかない医療用大麻栽培の認可を得た企業のひとつ〈Demecan〉(デメカン)で、今日は大麻の収穫日だ。
「大丈夫ですよ、僕と一緒ですから」とDemecan広報担当者のムハマド・アブドゥ・エル・カディル(Muhammad Abd El Qadir)は、私と並んで警備員の横を通り過ぎた。彼は10万平方メートルの工場の内部を案内してくれた。ここでは毎年1トンの蕾が収穫されるが、それでもドイツの医療用大麻の需要を賄うことはできない。連邦医薬品医療機器研究所(Federal Institute for Drugs and Medical Devices)によれば、毎年20トン以上の医療用大麻がこの国に輸入されているという。
Demecanの敷地内では、現在の収穫量を遥かに上回る量──この施設だけで10トンの大麻──を栽培可能だ。ただし、まだその認可は下りていない。しかし、合法化が実現すれば、状況は一変するだろう。
エル・カディルに大麻草を間近で見せてもらう前に、私は待合室で靴を赤のクロックスに履き替えなければならなかった。それから次の部屋に案内され、手を洗い、今度は歩くたびにキーキーと音を立てる緑のクロックスに履き替えた。その後さらに精子細胞みたいな防護服に着替え、もう一度手を洗った。完全に無菌状態になり、植物に害を与える可能性のあるあらゆる病原菌を除去したあと、エル・カディルと私は農園に足を踏み入れた。
最初に鼻を突いたのは、非常に強烈なカビ臭さ。それから洗剤にも似た、フレッシュなオレンジの香りだ。しかし、辺りを見回しても、大量のカメラとドアが並ぶ迷路のような真っ白な廊下以外、何も見当たらなかった。私の心を読んだかのように、エル・カディルは自分も何度か迷子になったことがある、と小声で囁いた。
「まずは赤ちゃんから始めましょう」と彼はいい、今まで見たこともないほど巨大な冷蔵庫が置かれた部屋に入った。そこには食品の代わりに、プラスチックの容器に浮かぶ小さな大麻の赤ちゃんが入っていた。
この赤ちゃんたちは、会社の未来を担っている。それぞれが別の種類の母株に由来するクローンだ。この農園では2種類の大麻草──ババクッシュとオレンジベルベット──が栽培されている。それでオレンジの香りが漂っているわけだ。この大麻の赤ちゃんは、栄養分が豊富な粘液の中で育ち、一定の大きさに達したら箱から出ることを許される。
成長した植物は黄色のフォームブロックに植え替えられたあと、GPS発信機が装備され、24時間体制で完璧な量の水と肥料が与えられる。なぜGPSを付けるのか? それは収穫高によって差はあれど、1鉢につき数千ユーロの値打ちがあるからだ。誰かがGPS発信機を外そうにも、数え切れないほどの監視カメラが見張っている。
次の部屋〈フラワールーム〉は、室温が25℃に保たれている。そこでは、1メートルほどに成長した大麻草が天井から金色のライトを浴びていた。この照明が作物の成長スピードを最大限に高めるのだ。大麻草が、強く甘ったるい香りを放つ花をつけるまでにかかる期間は約3〜4ヶ月。ここでは誰もが月2回の収穫日を指折り数えて待っている。
その後、エル・カディルは大麻愛好家なら喜びで胸がいっぱいになること間違いない3番目の部屋へと案内してくれた。この部屋に漂う匂いは、これまでの部屋とは比べ物にならないほど強烈だった。4つの金属のテーブルの上で、従業員が枝から花を外している。同社のベルリン支社で働くアルバイトの学生たちが、今日は臨時の補佐として手伝っていた。
90年代のヒップホップが鳴り響くなか、彼らは法務チームの手まで借りて、50キロの大麻を収穫した。
スタッフのひとりに、この部屋で受動的にハイになることはあるのか、と尋ねてみた。「正確にはわかりません。僕は治療として大麻を使っている患者なので」とマイケル・ミュラー(Michael Müller)は答えた。彼は熟練の庭師で、この仕事は自分にぴったりだと思ったそうだ。「以前は友だちからドラッグディーラーだとからかわれたものですが、当時も今も全く気にしていません」
そもそも、大麻がTHC(テトラヒドロカンナビノール)を放出するには加熱する必要がある。換気の悪い部屋で他のひとの煙を吸い込めばハイになる可能性があるが、ただ大麻草に近づいただけでは、そんなことは起こらない。
大麻が主に処方されるのは、慢性痛、不安障害、うつ、不眠症だ。さらに、てんかん、筋けいれん、多発性硬化症、化学療法による吐き気や嘔吐にも効き目がある。拒食症やがんによって食欲がないときも、食欲を増進する効果がある。
ミュラーと他のスタッフが収穫を終えたあとも、蕾にはまだ数枚の葉が残っていた。そこで次の部屋の刈り込み機の出番だ。耳の真横で岩を削っているような轟音を立てながら、刈り込み機は花に残っていた数枚の小さな葉を取り除く。大麻草の細かいほこりから身を守るため、この部屋の従業員は宇宙飛行士のような酸素チューブ付きのマスクを身につけていた。
刈り込みが終わると、今度は乾燥させる。従業員は蕾を金属のたらいに入れ、乾燥炉へと運んだ。その中で数日かけて水分を蒸発させ、重さを3分の2に減らす。その後、蕾は密閉され、薬局へと輸送される。「それでおしまいです」とエル・カディルはいう。私の工場見学もそこで終わりだ。役に立つことはできなかったが、確実に理解は深まった。
香り以外に、この農園でいちばん衝撃的だったのは、スタッフの慎重さだ。彼らは大麻草をまるで子犬のように丁寧に扱っていた。工場の部屋は病院以上に清潔で、あらゆる製造工程が細心の注意を払って行なわれていた。
大麻に対する私の時代遅れな偏見は完全に覆された。大麻は、特に医療の分野において、非常に有益な植物だ。いつの日か娯楽目的の大麻が合法化されたら、3ふかし目に挑戦してみてもいいかもしれない。