気候変動デモに参加するオーストラリアの若者たちの切迫感

2022年3月、気候変動への対策を求める若者のデモがオーストラリア首相のシドニー公邸前で行われた。参加者たちに話を聞いた。
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
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Photo by Don Arnold / Getty Images

2022年3月25日(金)、数千人にもおよぶ高校生と大学生、そして先住民や労働組合のメンバーたちが、スコット・モリソン首相に2つのメッセージを届けるため、首相が暮らすシドニーの公邸、通称キリビリ・ハウスに集った。このデモはスコット・モリソンが首相に就任して以来毎年行われている。

1つめのメッセージは、連邦政府が環境政策に組み込むべき要求をまとめたリストの項目を実行すること。

2つめのメッセージは「くたばれ」だ。

このデモは、世界の主要都市で開催された36のグローバル気候マーチのひとつとして企画されたが、オーストラリアは他の国とは違う、と参加者は訴える。この10年、オーストラリア全土で「前例のない」異常気象が相次ぎ、数えきれないほどの家屋や何十もの人命が奪われてきた。

2022年2月末にはニューサウスウェールズ州北部とクイーンズランド州南東部を流れる河川が氾濫し、気候変動の被害を受けたオーストラリア国民の数がまた増えた。ニューサウスウェールズ州北部にある町、リズモアに暮らす13歳のエラ・オドワイヤー=オシュラック(Ella O’Dwyer-Oshlack)もそのひとりである。彼女はこのデモでスピーチを行うため、両親とともにシドニーにやってきた。

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「私は気候難民です」とオドワイヤー=オシュラックは語る。「皆さんがご存じのとおり、リズモアは最近大洪水に見舞われました。私が生まれた家も、学校も、町もひどい被害を受けました。これは気候災害です」

「それでも、モリソン首相はリズモア訪問時、私たちと話す勇気すらありませんでした。あなたは、すでにきれいになったバスケコートのモップがけをした。私の家に来て、床のモップがけをするべきでした。モップがけが必要な状態でしたし、手を貸してくれたらありがたかったと思います」

今回のデモの中心は、3つの譲れない要求を訴えることだ。1つめは、2030年までにすべての再生可能エネルギー事業を公的資産とするために連邦政府が努力すること。次に、化石燃料分野の労働者にグリーンジョブを保証し、先住民のひとびとに彼らの土地の権利と同地での仕事を保証する公正な移行を行うこと。最後に石炭、燃料ガスの新規事業を完全に禁止すること。

VICEの取材に答えてくれたデモ参加者たちは皆、もしこれらの要求のうちひとつだけが実現するとしたら、3つめの要求を希望する、と述べた。

そのうちのひとりが、西シドニー出身でダルク族とグンバインギル族の血を引く女性、シャナヤ・ドノヴァン(Shanaya Donovan)だ。彼女はシドニーのデモでのスピーチの前に先住民の土地であることを確認し、自分は何よりもまずオーストラリア先住民の人間としてデモの場にいる、そして最近承認されたカリーカリーのガス発電所(6億豪ドル規模)と、反対の声もあるなかサントス社が進めているナラブライのガスプロジェクト(36億豪ドル規模)へ抗議する、とVICEに語った。

「彼らは先住民のひとびとの主権を侵そうとしています。私たちがここにいるのは、スコット・モリソンが耳を傾けようとしないから。もしひとつしか実現しないとしたら、ガス発電所や石炭火力発電所を禁止してほしい。本当の問題は、大気汚染を推し進めている大企業です。それが気候危機の原因なんです」とドノヴァンは訴える。

それでもモリソン政権は、規制への動きを一切見せていない。むしろ壊滅的なスピードで逆方向へと進んでいる。

3月中旬、The Australianはエネルギー・排出削減担当大臣のアンガス・テイラーが7つの新規化石燃料事業を促進していくと報じた。ロシアのウクライナ侵攻により、ヨーロッパではガス料金が現在最大300%増加しているが、テイラー大臣はそのヨーロッパでのガス危機に注目を集めることで、自らの方針を正当化しようとしている。

この計画ではクイーンズランド州、ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州での「優先的ガスインフラ事業」の動きを加速するために5000万豪ドル近くの助成金が投入される予定で、国連事務総長のアントニオ・グテーレスがこれについて「相互確証破壊」の危険性をはらむ「狂気」と評したのも当然だ。

しかしテイラー大臣のガス事業加速方針は大海の一滴にすぎない。2019年の発足以来、モリソン政権の化石燃料関連政策は物議を醸し続けてきた。

モリソン首相率いる連邦政府は、基本的な気候変動対策への取り組みが遅いだけでなく、むしろオーストラリアを居住不可能な土地にすることに積極的に貢献している。

政府の姿勢をまさに象徴するのが、ナラブライのガスプロジェクトだ。昨年10月、The Guardianが入手した資料によると、そのわずか数ヶ月前、事業に認可が下りることで「市民の信頼を損なう」のでは、と恐れたニューサウスウェールズ州政府が、本事業を連邦政府の「優先承認」リストから外すよう首相に要請したそうだ。

しかし連邦政府の気候政策、そしてもっと広く言えば首相のリーダーシップ自体への市民の信頼は、とっくの昔に失われている。そのことをモリソン首相に理解してほしい、と今回のデモの参加者たち全員が思っている。オーストラリアの若者たちがその感情を共有していることは明らかだ。

「『くたばれ』と言ったらスコット・モリソンの愛称の『スコモ』と叫んで」とデモの参加者たち。会場には「くたばれ、スコモ!」の声が響いた。

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