Black Trans Lives Need Critical Support and Care Right Now—And Always
Photo by Cole Witter. From left to right, Raquel Willis, Joshua Allen, Ianne Fields Stewart, Melania Brown, Vin Bella.


〈Black Trans Lives Matter〉黒人トランスジェンダーへの虐待や差別に終止符を

6月13、14日の週末、黒人トランスジェンダーの殺害に対する抗議デモが全米各地で開催され、数万人が集まった。彼らは、黒人トランスジェンダーのひとびとが経験する虐待や命の危険にピリオドを打つことを求め、声をあげた。
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP

アリエル・マリアンには、ただでさえ、姉のリア・ミルトンが死んだという事実を受け入れる間もなかった。それなのに、警察や地元メディアはミルトンを〈男性〉とみなし、彼女の傷口に塩を塗った。

ミルトンは、オハイオ州シンシナティ郊外に暮らす黒人トランス女性。バトラー郡保安官事務所によると、彼女は2020年6月9日、彼女から金品の強奪を試みた十代グループにより殺害された。享年25歳。当局の発表によると、彼女の身体には複数の銃創が認められたという。なお、当局は男性を指す代名詞でミルトンを繰り返し呼称し、地元メディアでも彼女が捨てた出生時の名前が使われた。

マリアンはミルトンを、「美しい心」をもった「美しいひと」だったという。そんなひとが、死後に不正確な性別で、そして過去の名前で呼称されていることに、マリアンは憤りを覚えた。

「姉への正義を求めますし、名前には力があるとみんなに気づいてほしい」とマリアンは語る。「誰しもが、〈棒や石は私の骨を折るかもしれないが、言葉は私を傷つけられない〉という言葉を聞いたことがあるでしょう。でもこの言葉は正しいとはいえません。本人が選んだ名前ではなく、あえて出生時の名前で誰かを呼ぶということは、そのひとのトランスジェンダーとしての存在、人間としての存在を軽視していることに他なりません」

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米国で黒人トランス女性として暮らすことはそもそも容易ではないが、6月に入ってからは苦難が立て続いた。ミルトンの死体が発見されるたった24時間前には、フィラデルフィア警察が27歳の黒人トランス女性、ドミニク・フェルズの死体を発見した。コミュニティへの攻撃はそれだけにとどまらない。6月7日にはSNSで、ワシントンD.C.で有色人種のトランス女性を支援するNPO〈カーサ・ルビー(Casa Ruby)〉が、2016年にフロリダ州オーランドのナイトクラブ〈パルス(Pulse)〉で起きた乱射事件を再現してやる、という内容の脅迫を受けた。6月12日にはドナルド・トランプが、以前より検討を進めていた医療費負担適正化法(Affordable Care Act)におけるトランスジェンダーの保護規定撤廃を発表した。

しかしそんな暗闇のなかにも、一筋の希望はある。現在、黒人トランス女性が率いる組織を支援するデモや寄付は、過去に例を見ないほどのレベルだ。トランスジェンダーへの暴力に、ようやく光が当たりはじめている。ただ、活動家やコミュニティメンバーたちは、これは始まりにすぎず、トランスジェンダーの殺害事件をどう未然に阻止するかについて、これからいっそう大局的な議論を進めていかなければならないと語る。

6月13、14日の週末、ボストン、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴで、ミルトンとフェルズへの正義を求めると同時に、ジョージ・フロイドの死をきっかけに活発化している、警察の暴力や制度的人種差別に関する国内での議論において、黒人トランスジェンダーに焦点を当てることを求めるデモが開催された。このデモを撮影した写真では、ストリートを埋め尽くすほどの参加者が集まったことがわかる。ブルックリンのデモ参加者は、警察の発表に基づけば1万5000人にも及んだ、とデモ主催者は試算する。ハリウッド大通りのデモ参加者は、路上に〈黒人トランスの命は大切だ(Black Trans Lives Matter)〉というスローガンをステンシルで描いた。

このメッセージは、米国医師会(American Medical Association)が「暴力が蔓延している」と称した現状に世間の注目を集めることを目的として発されたものだ。米国のLGBTQ支援団体〈ヒューマン・ライツ・キャンペーン(Human Rights Campaign)〉によれば、2019年には少なくとも27名のトランスジェンダーが暴力により命を落とし、今年はすでに、フェルズとミルトンがそれぞれ黒人トランス女性殺害事件の13、14番目の被害者となっている。

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日曜のブルックリン美術館にて、解放デモに参加するティファニー・マンロー。ALL PHOTOS BY COLE WITTER

フィラデルフィアを拠点とするトランスジェンダー・コミュニティのメンバー、シャロン・クックスは、フェルズの殺害で衝撃だったのはその残忍な手口だという。彼女の殺害について詳細はまだはっきりわかっていないものの、彼女の遺体は切断され、亡骸は6月8日夜、スクールキル川で発見された。クックスは、地元に暮らすトランスジェンダーたちが「二次的トラウマ」や「ドミニクの殺され方に関するショック」を受けていると語る。

使われている〈音符〉は違っていても、その〈旋律〉は、クックスにとって馴染みのある、恐ろしいものだ。フィラデルフィアでは2013年以来、アリシア・シモンズ、ミシェル・ワシントン、シャンティ・タッカーを含む、少なくとも7人のトランス女性が殺害されている。

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「今回の事件のあと、どういうことが起こるかは大体わかります。なぜなら同じようなことが頻繁に起こっているから。それが本当に苦しいですね」とクックスは吐露する。「まず追悼式があって、みんながこの話題について話す。メディアも取り上げる。そしたらまた別の殺人事件が起こる。これまで起こった一連の事件から、私たちは何も学ばない。残念ながらそれが現状なんです。フェアじゃないし、正しいとも思えません」

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ブルックリン美術館で、解放デモ参加者たちの前でスピーチをするレイリーン・ポランコの姉妹、メラニア・ブラウン。

トランスジェンダー・コミュニティのメンバーたちは、ミルトンやフェルズ、そして5月にフロリダ警察に射殺された黒人のトランス男性、トニー・マクデードの死が、トランスジェンダーを取りまく特別な、そして習慣的な環境への対処が今すぐに必要であると証明してくれることを願っている。なぜならその環境こそが、これらの悲劇をもたらす一因だからだ。NY市反暴力プロジェクト(New York City Anti-Violence Project)の広報責任者、エリエル・クルスは、そもそも社会がトランスジェンダーのひとびとを「簡単に処分可能」だとみなしているという事実こそが、常軌を逸したレベルの虐待や差別がいたるところで発生する原因となっている、と指摘する。

「あらゆるかたちの暴力があるんです」とクルスは語る。「親しいパートナーからの暴力、ヘイトクライムの暴力、警察の暴力。見知らぬ他人からも、恋愛関係、性的関係にあるパートナーからも暴力をふるわれます」

トランスジェンダー、特に黒人トランス女性にとって、そのような有害なサイクルから脱け出すことが難しいのは、自分の力でこの世界を生きていくためのチャンスがほぼないからだ。クルスは、2019年にライカーズ島の刑務所内の監房で死亡した27歳のレイリーン・ポランコに言及する。NBC Newsが今月13日に公開した映像では、てんかんを伴う持病を抱えていたポランコが監房内で意識不明となって倒れているにもかかわらず、複数名の看守が笑っている様子が映っていた。看守たちは1時間半彼女を放置してからようやく医療チームを呼んだ。

NYのボールルームシーンのメンバーだったポランコは、存命中もこれと同じ嘲笑を浴びせられていた。クルスによれば、ポランコの求職中にある企業の経営者が「彼女をあざ笑ったり、エントリーの機会さえも与えてくれなかった」ことを、彼女の家族が語ったという。ポランコはセックスワークで生計を立てるしかなかったが、その結果、売春と薬物関連の軽暴力の罪で逮捕されることになる。

「何度も何度も繰り返されています」とクルスはいう。「私たちは、黒人トランスジェンダーのひとびとが生きているあいだに、今と同様の関心を払うべきなんです。そうすれば死んでからではなく、彼らの生きる人生を花で彩ることができます」

ミルトンフェルズ、それぞれの家族が彼女たちの葬儀をあげるための〈GoFundMe〉キャンペーンでは、合わせて16万ドル以上の支援金が集まっているが、いっぽうで、黒人トランス女性が被害者になる事件が起きてその名前がハッシュタグ化するよりも前に、同じくらいの支援金が集まることを願わずにはいられない。最近では、NPOの〈G.L.I.T.S.(Gays and Lesbians in a Transgender Society: トランスジェンダー社会で生きるゲイとレズビアンたち)〉が、低所得で弱い立場にあるNYの黒人トランスジェンダーが長期的に居住できる住宅をつくるために目標としていた100万ドルの資金集めを達成した。これは、中規模のコミュニティグループにとって間違いなく大きな偉業だ。

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G.L.I.T.S.のセイエン・ドロショー。ブルックリン解放デモにて。

またクックスは、LGBTQを支援する米国内のNPO団体が「コミュニティのメンバーに実用的な専門知識や技能を教え、賃金を稼げるようにする」ための教育やエンパワーメント・トレーニングへと活動領域を広げていくことを望んでいる。毎日のように「お前には何もない」と言われ続けてきた周縁化されたひとびとにとっては、指導やピアサポートの提供は実に有益だ。

「社会からの拒絶、差別は、ひとびとの自尊心を蝕みます」とクックス。「その大きな問題を無視すると、彼らは割れ目の中に落ちてしまうんです」

ミルトンの妹で、同じくトランスジェンダーである22歳のマリアンは、もし社会がミルトンの命を価値あるものとして見てくれていたなら、きっとすべては変わっていただろう、と確信している。マリアンは姉と別の家庭で育ったが、ふたりは手紙やメッセージでやりとりしていた。彼女はミルトンが殺害されたというニュースをパソコン上で見たが、そのときに画面に現れた写真は、大学を卒業したばかりの演劇オタクであるマリアンが観賞した舞台作品について、ふたりで話をした今年4月以来、初めて見る姉の顔だった。

4月に会ったときのミルトンは、「ただ耳を傾けて」、妹について「いろいろと知れることを心から喜んでいる」ように見えたという。マリアンも、離れて暮らしていた姉とこれから「姉妹の絆を深める」ことを楽しみにしていた。
「姉について、まだ知らないことだらけでした。なのに彼女はこの世界からいなくなってしまった」とマリアンはいう。

最後の会話からしばらくして、マリアンは姉が、自分の話に刺激を受けて大学に戻ることを検討しはじめたことを知ったが、それも叶わぬ夢となった。ミルトンは、「トランスジェンダーであることをオープンにしながら、他人にどう思われようと気にしない」妹の姿をみて、自分にも学位を取るという選択肢があると知ったのだ。

姉の人生と、機会さえあれば達成できたであろう夢のことを考えると、ブロードウェイミュージカルの『ヘイディズタウン』という作品の劇中歌がよぎる、とマリアンはいう。

「悲しい歌だけど/それでも歌うんだ」(「Road to Hell」)

「私の姉の身に起きた出来事は、本当にひどいことです。でも私たちは議論を続けなければならない」とマリアンは断言する。「私たちはこの炎を燃やし続けなければいけないんです。もうこれ以上、被害者が出ないように」

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This article originally appeared on VICE US.