映画『ホーム・アローン』(Home Alone, 1990)と『ホーム・アローン2』(Home Alone 2 : Lost in New York, 1992)は、クリスマス・ホリデーには欠かせない名作だ。マコーレー・カルキン(Macaulay Culkin)が演じた主人公のケヴィン・マカリスター(Kevin McCallister)が、ジョー・ペシ(Joe Pesci)演じるハリー(Harry)と、ダニエル・スターン(Daniel Stern)演じるマーヴ(Marv)の、まぬけでのろまな泥棒コンビ、通称〈ウェット・バンディット(Wet Bandits)〉と戦う話。その決着をつけるクライマックスは、1作目も2作目も圧巻だ。しかし、戦い自体はフェアとはいえない。主人公ケヴィンは、〈Sっ気〉満載のトラップを、そこかしこにしかけまくる。そして泥棒コンビは、全てのトラップに引っかかる。ふたりはかなりの痛手を負っているはずだが、それでもケヴィンを追う。往年のワーナー・ブラザースのドタバタ短編アニメーションが実写化されたかのようだ。
しかし、もしこれが現実世界だったら、ケヴィンのトラップ攻撃は、人間の身体にどれほどのダメージを与えるのだろうか? その疑問を解決するべく、ニューヨーク市で働く救急士、ジョセフ・オヘア(Joseph O’Hare)に答えを求めた。オヘアは、2作品のエンディングを改めて鑑賞し、専門家の見地から解説してくれた。
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〈火炎放射攻撃〉
『ホーム・アローン』
被害者:ハリー
診断:「II度かIII度の熱傷を負っているようですね。火炎放射器でのやけどの場合、真皮の下まで損傷し、より深部の組織まで及んでいるおそれがあります。本来なら、皮膚は焦げて真っ黒になり、重度の水ぶくれが発症します。患部の骨が露出している場合もあります。雪に頭を突っ込むのは適切な処置ですね。ただ、症状の重さによっては、そうする前にショック状態に陥る可能性があります」
治療:「すぐに命を落とすようなやけどではありませんが、結果として、命にかかわる危険性はあります。低体温症、血液量減少、感染症が心配です。また、私なら気道確保に注意します。気道を損傷している可能性がありますので」
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〈ペンキ缶攻撃〉
『ホーム・アローン』
被害者:ハリーとマーヴ
診断:「現実世界であれば、顔がつぶれているでしょう。歯も抜けるし、鼻は折れるし、缶が当たった衝撃と床に落ちた衝撃で、様々な骨が折れているはずです。脳出血が起きていてもおかしくありません。そこから出血性脳卒中を発症してしまうと死につながります」
治療:「頸椎を動かさないようにします。また、吸引をしっかりして、気道を確保します。折れた歯が詰まったり、体液が流れこんでいる可能性がありますから」
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〈レンガ攻撃〉
『ホーム・アローン2』
被害者:マーヴ
診断:「死にます。こんな患者、生きているはずがありません。頭蓋骨は、複数箇所割れているでしょうし、道の上には脳みそが飛び散っているのではないでしょうか。しかも、最初のレンガ1個でそうなるはずです。そのあと、頭の同じ部分に当たるレンガは、損傷レベルを高めるだけです」
治療:「救急士が意識障害を測るときに使うのが、意識清明(A:alert)、言葉に反応(V:verbal)、痛みに反応(P:pain)、反応なし(U:unresponsive)という4レベルの〈AVPUスケール〉です。それに照らし合わせると、彼は意識清明ではありませんね。ハリーの質問に対する反応から明らかです。言葉には反応する〈Verbalレベル〉のようです。しかし、現実世界なら、反応なし、もしくは、死亡しているでしょう」
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〈トイレ爆発攻撃〉
『ホーム・アローン2』
被害者:ハリー
診断:「再び頭頂部の頭皮の熱傷ですね。しかも、前回より燃えている時間がかなり長いし、屋内です。おそらく前作の火炎放射器攻撃のときと同じような症状でしょう。骨が露出し、水疱ができ、皮膚が焦げる。今回は、建物全体が爆発しているようなので、おそらく全身に重度のやけどを負うはずです。そうなったら生きていられません。また、爆発した建物内の空気汚染濃度も高いでしょうから、間違いなく死ぬでしょう」
治療:「前作でのやけどとは違い、今回は植皮できる皮膚が彼の身体に残っていません。建物のなかなので、気道損傷の危険性も10倍以上に高まっています。様々な発がん性物質やその他有害物質も吸い込んでいるでしょう。これほどの現場で救助しなくてはならないとしたら、私の身の安全すら危ういですね」