カリフォルニア州南部に位置する街コンプトン(Compton)。アメリカで最も危険な都市の1つとして知られ、2006年の調査では、セントルイス、デトロイト、フリントに次ぐ全米ワースト4位、さらに人口10万人未満の都市では、ワースト1位の犯罪都市と発表された。なかでもギャングの抗争による殺人事件で悪名高く、ロサンゼルスで結成されたブラッズ(Bloods)とクリップス(Crips)のアフリカ系アメリカ人による「2大ストリートギャング」を中心に、殺人、強盗、麻薬取引などの凶悪犯罪が日常的に発生している。1980年代には、悪名高きギャングスタ・ラップ・グループ、N.W.A.が登場。昨年公開されたグループの自伝映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』は、ミュージシャンの自伝映画としては史上最大の興行収入を記録したのも記憶に新しい。一時に比べると犯罪は減少しているが、未だロサンゼルスのガイドブックでは、「絶対に行ってはいけない場所」として、注意喚起されている。
クリップスの「C」を認めないブラッズの面々は、なんでも頭文字を「B」に替え、「コンプトン(Compton)」を「ボンプトン(Bompton)」と呼ぶ。そんな現在の「ボンプトン」ヒップホップ・シーンを牽引しているのが、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)。2012年にメジャーデビューを果たし、アルバム『To Pimp A Butterfly』(2015)と『untitled unmastered』(2016)は全米1位を獲得。更に2016年第58回グラミー賞では、最多11部門にノミネートされ、最優秀ラップアルバムなどの5部門を受賞するほどのビッグスターへと成長した。しかもコンプトン出身でありながら、犯罪や刑務所の類いにはいっさい関わらず、真摯に音楽に取り組むその姿勢は、悪名高いこの街のキッズたちに新たな可能性を示している。
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しかしもちろん、ケンドリック・ラマーの手によって、街の犯罪が収まることはない。コンプトン・シーンは未だに混沌としており、実際、ケンドリック・ラマーの友人たちも不慮の死を遂げている。一体「ボンプトン」とはどんな街なのか。どこに向かっているのか。ケンドリック・ラマーを中心に、現在の「ボンプトン」を探る。
第一回は、ケンドリック・ラマーとそのクルー、そして彼の幼馴染であり、元ギャングのリル・エル(Lil L)が登場。
原題:noisey Bompton Part 1 (2016)