あなたが飲み会のトラブルメーカーであれシラフな同伴者であれ、幻覚剤は自分がハイになっていることを自覚するよりもずっと速く、私たちの週末に浸透しつつある。
むしろこの動きは推奨するべきかもしれない。医学雑誌『ランセット』に掲載された2010年の論文では、幻覚剤はアルコールやコカインのようなドラッグよりはるかに安全で、普通は二日酔いにもならない。一方でシロシビン、通称マジックマッシュルームとMDMAはアフターグロウ(※薬物使用後にしばらく続く幸福感や爽快感)を引き起こす場合もあるといわれている)。
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しかし、幻覚剤を使ったのに知覚の扉は閉ざされたままだった、という経験のあるひとはいるだろうか? もしくは、とんでもなくハイになれるドラッグは、ケタミンだけとだ思っている? もしそうなら、そしてあなたが抗うつ薬を処方されているなら、薬がトリップ体験にどんな影響を与えるのか気になっているはずだ。
2006年、イングランドの薬局では3100万個の抗うつ薬が販売された。2021年から2022年にかけての販売数は8340万個と予想されている。イングランドの成人への抗うつ薬の処方件数はこの間だけで790万から830万人へと5%増加した。米国の全国保健統計センター(National Center for Health Statistics)が発表した2020年のデータによれば、2015年から2018年にかけて、成人の13.2%が抗うつ薬を服用したという。
世界の薬物使用者の習慣を調べる国際薬物調査(Global Drug Survey)によれば、ここ7年であらゆる幻覚剤の使用が増加した。この増加は、メンタルヘルス治療としての幻覚剤の研究が盛んになったことに起因する。しかし早期臨床試験や事例報告は、幻覚剤をSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:選択的セロトニン再取り込み阻害薬 例:シタロプラム、フルオキセチン、セルトラリン)やSNRI(Serotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitor:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 例:デュロキセチン、ベンラファキシン、ミルナシプラン塩酸塩)のような抗うつ薬と組み合わせると、効果が落ちることを示唆している。
もちろん、薬の相互作用は人によって千差万別で、メンタルヘルス治療も同じだ。原っぱで薬にマジックマッシュルーム・チョコレートを混ぜても、二次会でケタミンをのんでも、その効果はひとによって異なる。幻覚剤と抗うつ薬の組み合わせについて、いったい何が安全で、愚かで、無意味なのかを確かめるため、今回VICEは薬物研究と治療の権威に話を聞いた。
LSDと抗うつ薬
神経伝達物質のセロトニンについては知っているひとも多いだろう。感情のコントロールを助け、時には〈幸せホルモン〉とも呼ばれる。抗うつ薬SSRIは主にセロトニン受容体を抑制することで作用し、気分を向上させるセロトニンの脳内濃度を上昇させる。
LSDもマジックマッシュルームに含まれるシロシビンも、5-HT2Aと呼ばれるセロトニン受容体のサブタイプを活性化する。ここでサイケデリック体験の要である幻覚が生じる。 SSRIによるセロトニン受容体の機能低下は理論上、この薬剤が5-HT2Aに働きかけ、効力を発揮することを妨げることを意味する。例えばハウスパーティーのホストがチャイムに気づかず、缶でいっぱいの袋を抱えて会場のドアを必死に叩きながら、待ちぼうけを食らった経験はあるだろうか。まさにそんな感じだ。
ケタミン治療クリニック〈Awakn〉の主任研究員で、薬物と幻覚剤治療の権威であるデビッド・ナット(David Nutt)教授も、それに同意する。「SSRIを服用している場合、非臨床的な環境でシロシビンやLSDを使用すると、効果が落ちることが報告されています」と過去の研究でSSRIと幻覚剤が相互補完的に作用する可能性を示唆したナット教授は指摘する。「しかし、この分野についてはまだ不明なことが多いです」
データは不足しているものの、過去の研究も効果が低下する可能性を示している。1996年の小規模な実験では、抗うつ薬を服用した32人の被験者のうち28名(88%)が「LSDへの反応の主観的な低下もしくは事実上の消滅」を報告したという。
しかし、そもそもLSDと抗うつ薬を併用するのは危険ではないのか? そう心配しているあなたに朗報だ。「両方とも基準値での併用なら、重大な副作用は報告されていません。LSDの基準値は200マイクログラム、シロシビンは25ミリグラムです」とナット教授は説明する。しかし、ジョンズ・ホプキンス大学幻覚剤・意識研究センター(John Hopkins Center for Psychedelic and Consciousness Research)の幻覚剤と気分安定薬のリチウム塩(主に双極性障害の処方薬)の使用に関するレビューによれば、62件のオンラインの報告のうち47%にてんかん発作が含まれた。
シロシビンと抗うつ薬
LSDと同様、Reddit上では、より多くの抗うつ薬服用者が、抗うつ薬と併用時のシロシビンの効果低下を報告している。
2022年にオンライン調査によって実施されたジョンズ・ホプキンス大学の研究では、「セロトニン作動性抗うつ薬は非セロトニン作動性抗うつ薬と比べ、シロシビンの効果を弱めるらしい」ことが明らかになった。この研究では、SSRIとSNRIをNDRI(ノルエピネフリン・ドーパミン再取り込み阻害薬)のブプロピオン(米国ではウェルブトリンという商品名で知られていて、セロトニン受容体に作用しない)を比較した。さらに、マジックマッシュルームと併用時の効果低下は、SSRIやSNRIの服用をやめた後も、3ヶ月続く可能性があることが示された。
〈Numinus Wellness Inc〉のサイケデリック療法サービス主席臨床医のリード・ロビソン(Reid Robison)は、メンタルヘルス治療患者のトリップ体験が弱まる理由について、次のような見解を示した。「まずひとつは、独自の〈壁をつくる〉能力によるものかもしれません」と彼は説明する。「強迫性障害のようなオーバーコントロール状態や拒食症、極度の不安障害などの症状があると、現実世界での体験を厳しく制御しようとする可能性があります。それによって、幻覚体験が抗うつ薬と同じくらい、もしくはそれ以上に制御されるかもしれません」
この組み合わせも一般的には安全とされているが、シロシビンによる離脱症状も複数報告されている。「マジックマッシュルームやトリュフを摂取した翌日は感情の起伏がなくなり、むなしい気持ちになる」とフルオキセチンを処方されている27歳のケイト(Kate)はVICEに語った。「抗うつ薬を服用していない友人たちとは真逆の反応です。みんな普段より幸せな気分になれるといいます」。ケイトは記事中の他の人物と同様、プライバシーを理由に匿名を希望した。
ジョンズ・ホプキンス大学のマシュー・ジョンソン(Matthew Johnson)博士は次のように語る。「うつ病を抱える人びとがシロシビン摂取後に気分低下に陥りやすく、SSRI服用も同様の影響を与えることは理論上可能です。ですが、関連するグループを比較した正確な研究は行われていません」。現時点で確かなのは、SSRIやその類似薬は幻覚体験の効果を弱める可能性があるということだけだ、と博士は述べた。
MDMAと抗うつ薬
MDMAが幻覚剤に分類されていることを知らないひとも多いかもしれないが、MDMAはセロトニンの活性化に関して、LSDやシロシビンと類似する点がある。かいつまんで説明すれば、LSDとシロシビンは幸福感を高める神経伝達物質の脳内濃度に作用することなくセロトニンを受容体に結合する一方で、MDMAは神経経路に〈洪水〉を引き起こす。
「健康な志願者にMDMAとSSRIを与え、MDMA単体の作用と比較した研究はいくつかあります。これらの研究では、SSRIの1回分の服用だけで、MDMAが精神に与える作用が80%減少することがわかりました」とMDMA研究の第一人者で、医療目的でMDMAに類似した化合物を開発するTactogen社のCEO、マット・バゴット(Matt Baggott)氏は説明する。
このことを踏まえると、MDMAとSSRIの併用がセロトニン症候群のリスクをもたらすという見解も多いため、そもそもMDMAを摂取する価値があるのかと疑問に思うひともいるかもしれない。体内のセロトニン濃度の上昇は、体の震えや昏睡などの原因となり、最悪の場合は命に関わる。しかし、バゴット氏は「MDMAとSSRIの適切な容量(大抵は80〜125ミリグラム、薬の強さによっては2分の1錠)での併用は、MDMA単体ほど劇的なリスクをもたらすとは思えない」と語り、「普通のひとにとっては、セロトニン症候群よりもオーバーヒートをMDMAのリスクとして捉えるほうがわかりやすいかもしれない」と指摘した。
MDMAは体温調節機能に影響を与える。つまり、汗まみれのクラブや灼熱の音楽フェス、水分補給が不十分なダンスフロアなどで摂取すれば、オーバーヒートを引き起こしやすいということだ。
では、離脱症状はどうなるのか? 離脱症状は長らくエクスタシーを得るうえで避けては通れない症状とされてきた。レイヴ後に5-HTP(体内でのセロトニン生成を助ける)の錠剤を飲むことは、離脱症状を無理やり抑えるための比較的よく知られたライフハックだ。もちろん、厳密に調査されたわけではないが。
興味深いことに、バゴット氏はMDMAの後にSSRIを服用すると離脱症状の軽減に「効果があるかもしれない」とVICEに語った。彼はMDMAの直後にSSRIを投与すると、脳を過剰な刺激による悪影響から守ることが示唆された動物実験を紹介した。さらに彼は、MDMA摂取後に離脱症状に陥りやすく、普段はSSRIを服用しない人びとを対象に、未発表の小規模な研究を実施した。
「実験室でMDMAを摂取すると、彼らは摂取の5時間後も26時間後も認知タスクのパフォーマンスが悪化しました」。別のセッションでは、被験者にMDMAを与え、その3時間後にSSRIであるシタロプラムを投与した。彼はそれが「MDMAの主要な感情的効果を著しく変えることなく、MDMAによるパフォーマンス低下を防いだ」という。「この結果は、SSRIがMDMAの望ましくない後遺症を軽減するという見解を裏付けています」
つまり、MDMAの数時間後に処方薬の抗うつ薬を服用すれば、離脱症状が和らぐかもしれないということだ。しかし、当然ながらこの実験はコントロールされた実験室で実施されたもので、日常的なレイヴァーが処方箋なしにSSRIを突然服用するべきではない。前例がないほど強力なエクスタシーの錠剤が出回っている今はなおさらだ。
「アルコールや他のドラッグもさらなる不安材料です」とバゴット氏は指摘する。「フェスのような体力が必要とされる環境は、ドラッグの併用や新たな組み合わせを試す最適な場所とはいえません」
2022年に専門誌『Journal of Psychopharmacology』に掲載された、MDMAの臨床使用が〈ブルーマンデイ〉を引き起こすことは滅多にないということが判明した論文からもわかるように、離脱症状は私たちが考える以上に、たくさん踊ったり、食事や睡眠が不十分な場合など、身体的な負担によるところが大きいのかもしれない。
ケタミンと抗うつ薬
ケタミンは、一見するとSSRIの影響は受けないように思われる。また、このふたつは一般的に比較的安全な組み合わせだと考えられていて、それがこの薬物は信頼できない、という認識を軽減させている。
「ケタミンは大抵の場合、全く異なる神経伝達物質のシステムであるグルタミン酸に働きかけます」とロビソン氏は説明する。「その効果は他の幻覚剤に比べて神経伝達物質の干渉を受けにくいのです」。だからこそケタミンはMDMAのような効果が低下しやすい薬物に比べ、効き目を実感しやすいのかもしれない。
さらにロビソン氏は、ケタミンが脳の「外側手綱のバーストモード」を阻害すると指摘する。外側手綱は否定的な感情に関係する部位で、SSRIの影響をほとんど受けないため、SSRIとケタミンを併用すれば、気分が向上する効果がある。それこそがケタミンが治療抵抗性うつ病の薬剤や治療ツールとして開発されてきた理由のひとつだ。
「ケタミンを服用すると気分が少し軽くなり、ストレスも減ります」とロビソン氏は続ける。「効果は1〜2週間ほどしか持続しませんが、発作やうつ症状から抜け出したいひとに役立つ可能性があります」。もちろん、ロビソン氏の見解はきちんと処方される、臨床試験済みのケタミンに関するものだ。グラストンベリーのストーンサークルでマントを羽織った怪しげな男から買う未承認の粉末ではない。フェスのような娯楽的な状況下では離脱症状が起きる可能性が高まり、アルコールとの併用も危険だ。
フェスシーズンに羽目を外す機会が増えるのは仕方ないが、もっとハイになりたいがために、主治医に相談することなく勝手に投薬を中断しないでほしい。あなたの思考、体、魂の健康が第一だ。