ukraine women soldiers
2018年、独立記念日の数日前にキエフで行われた軍事パレードのリハーサルに参加する女性兵士たち。2014年以来、ウクライナ軍における女性の存在感は大きく増している。AP PHOTO/EFREM LUKATS

「私たちは死を恐れない」:武器を持ち、ロシアと戦うウクライナの女性たち

2014年以来、ロシアの侵略に対抗して女性の新兵の数が増加し続けており、ウクライナの国防における女性の役割の重要性は高まっている。
Koh Ewe
SG
AN
translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP

ウクライナ出身で、現在29歳のクリスティーナは、家族とともに10年以上イタリアで暮らしていた。スーパーマーケットで働きながら、副業として結婚式で歌唱もしていた。しかし1年前、ウクライナの東部国境沿いにおける軍事的緊張が高まると、彼女は母国に戻り兵士となった。

もちろん彼女は、自らが直面することとなる危険は承知していた。2014年以来、ウクライナは東部のドンバス地方において、ロシア政府が支援する侵略の標的となってきたのだった。

「人生に別れを告げるリスクは常に存在します。私たちは死を恐れない。私たちが恐れるのは、奴隷となることです」とクリスティーナはVICE World Newsに語った(姓と居場所については安全上の理由のため伏せています)。「私は最後まで、自分の国を離れません」

Kristina joined the Ukrainian military over a year ago to fight Russian forces.

クリスティーナは1年以上前、ロシア軍と戦うためにウクライナ軍に入隊した。PHOTO: KRISTINA

クリスティーナのようにロシアの脅威から自国を守ろうと武器を手にする決意をした女性たちは多く、その結果、ウクライナ軍は世界の軍隊のなかでも、女性の割合が特に多い。

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ウクライナ国防省によると、2021年初頭の時点でウクライナ軍にはおよそ5万7000人の女性がおり、総員数の22.8%を占めている。この数字は、隣国のポーランド(7.5%)、ロシア(4%)、さらに米国(16%)やドイツ(12%)と比べても著しく高い。ここまで女性が占める割合が多いのは、ノルウェーやスウェーデンなど、男女を同等の条件で徴兵しているほんのひと握りの国軍のみだ。

ロシアによるウクライナへの攻撃が止まぬなか、自国を守る責任の一部を担っているのは、増加し続ける正規および非正規の女性兵士たちだ。そのなかには、最近銃の撃ちかたを覚えた79歳の女性や、2015年のミス・グランド・インターナショナルにミス・ウクライナとして参加したアナスタシア・レナ、そして元結婚式シンガーのクリスティーナなど、さまざまな女性がいる。

クリスティーナは山岳部隊に所属する唯一の女性兵士だが、「すべて男性と対等の立場で」行なっている、と語る。「仲間たちは私を、何よりもまず女性兵士として、友人として、姉妹として扱ってくれるんです」

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が隣国ウクライナへ侵略を開始したのは2月24日。以来、ウクライナの民間人たちはロシア軍と戦っているが、そのなかでも火炎瓶の自作から道路標識の撤去まで、女性の活躍が目立つ。

ウクライナの抵抗における女性の役割は、2013年に起きたマイダンにおける抗議運動にまで遡ることができる。大規模なデモの波が起きた結果、当時の大統領で親ロシア派であったヴィクトル・ヤヌコーヴィチが追放されることとなった騒乱だ。

ロシア政府の激しい反発を受けたこの抗議運動の最中、女性たちは仮設病院で手伝いをしたり、自衛隊に参加するなどした。その年、ウクライナ軍に入隊する女性の数は大幅に増加しはじめ、2020年までの6年間でその数は2倍以上になった。

「(入隊する女性たちは、)ウクライナ社会が自らの自由と主権を守るために何でもするということを示しています」と語るのは、ウクライナに関連する教育活動を行う慈善団体、ロンドン・ウクライナ協会(Ukrainian Institute London)の代表、オレーシャ・クロメイチャクだ。

ロシア政府がクリミアを併合し、ドンバス地方の分離主義者を支援した2014年、数多くの女性たちがマイダンの抗議運動のときと同じ役割を果たしていた。しかし今回は軍に入隊している、とクロメイチャクは語る。

法的な制約を回避するすべを見いだす者もいたが、もともと女性が戦闘任務に就くことは認められていなかった。また長年にわたって、軍隊内でのジェンダーに基づく差別の存在や、セクハラ疑惑などが報告されてきた。

しかし2018年、軍隊におけるジェンダー平等法が可決されたことで、軍隊に所属する女性に男性と同等の権利が与えられた。それが大きな社会的変化をもたらした、とクロメイチャクは指摘する。

「戦争努力に参加した女性兵士は、ジェンダーロールに対するウクライナの伝統的価値観にあらがうべく大いに尽力しました」とクロメイチャク。「女性兵士は、まず女性としてではなく、軍に入隊することを選んだ職業人としてみなされるようになったんです」

今回のロシアの侵略をきっかけに、女性兵士の数はさらに増えている可能性がある。昨年12月に国防省の規制が改正され、戦時中に動員できるよう、従軍可能と認められた18〜60歳の女性の徴兵制度の対象者名簿への登録が義務付けられたのだ

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今回のロシアの侵略をきっかけに、女性兵士の数はさらに増えている可能性がある。昨年12月に国防省の規制が改正され、戦時中に動員できるよう、従軍可能と認められた18〜60歳の女性の徴兵制度の対象者名簿への登録が義務付けられたのだ。

「国境に12万2000人を超えるロシア兵が配置されていることを考えると、この決定は合理的で賢明であり、時宜にもかなっているように思われます」とウクライナ最高議会のオレクサンドラ・ウスティノヴァ議員は当時語っていた

今年2月、ウクライナ当局は民間人の予備兵で組織する領土防衛隊(Territorial Defense Force)で150万人以上の民間人を採用することを検討していると発表した。昨年、国民の義務だと考えてこの部隊に入隊した女性に、イェヴェニーア・チェクがいる。

1年前の彼女は、ウクライナ中部のポルタヴァ地方に暮らす美容師だった。今は地元の予備部隊の一員でもある。彼女のように、民間人として働きながら軍事教練に参加する志願兵は通称「週末戦士」と呼ばれ、侵略者と戦う軍隊を支援するために動員される。

Yevheniia Chekh is a "weekend warrior," a person who holds a civilian job but is trained to assist the military against Russian invaders.

ロシアの侵略者たちに対抗する軍隊を支援するために訓練を受けている民間人、「週末戦士」のイェヴェニーア・チェク。COLLAGE: VICE / IMAGES: YEVHENIIA CHEKH

ロシアの侵攻が始まる前、チェクは毎週土曜に軍事演習を受けてきた。スポーツ歴がない46歳の彼女にとっては過酷な経験であったが、彼女は戦闘に参加することに「恐れやためらいはない」と語る。

「今、ウクライナ全体、ウクライナ人全員がロシア軍と戦争状態にあるんです」とチェク。「私は覚悟を決めていますし、自信がある。敵への恐怖心も同情心もありません」

「私には家族がいます。でも、私が心配しているのは家族だけじゃない。すべてのウクライナ人なんです」

しかし、チェクのように過去に軍事経験のない新兵は、現在の危機に対する完璧な解決策とはいえないのが事実である。2月末にはTikTokに、生中継のテレビインタビューに答えるウクライナの前大統領ペトロ・ポロシェンコの後ろで、兵士が誤ってライフルマガジンを落とす一部始終が映った動画が公開され、爆発的に拡散した。兵士のポンコツなミスはすぐにミームとなり、笑いと同情を集めた。

この兵士が職業軍人なのか新兵なのかは定かではないが、動画の視聴者たちは、混乱を極めるロシアの侵攻のなかで兵役に就く、女性を含む数多くのウクライナ市民を、この兵士が象徴しているかのように受け取った。

「ウクライナの市民が武器をとるしかないと感じているという事実こそ、国際社会がウクライナをロシアの攻撃から十分に守れていないことの証拠なのです」とクロメイチャクは語る。

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