インドネシアのカンフーマスター、オディ（Odi）は、過去20年にわたって、この世のあらゆる近接武器を極め、数え切れないほどの弟子たちを、インドネシアのあらゆる武術大会で優勝に導いてきた。
2018年８月に開催されたアジア武術競技大会で、インドネシアは金メダルを含め５つのメダルを獲得した。そんな快挙に貢献したオディが、総合格闘技に取り憑かれた世の中におけるカンフーの過去、現在、未来を語る。
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カンフーを始めてどれくらいになりますか
教え始めたのは1996年。プンチャック・シラットやブラジリアン柔術など、他の格闘技のトレーニングもしていますが、いちばん熱心に学んできたのはカンフーです。
伝統的なカンフーと武術の違いを教えてください。今や、カンフーは舞踊とほぼ変わらず、より華やかな動きのほうが重視されるというのは本当ですか？
私の見解では、実用性よりも美しさを重視するのはむしろ武術です。武術のスピード感は驚くべきものですが、そこに闘争心はほとんどありません。武術は、内容より形式を重んじるからです。しかし、伝統的なカンフーの場合、正しい型や訓練はあるものの、闘争心は失われていません。武術には、型としての〈套路（とうろ）〉と組手の〈散打〉というふたつにわかれます。套路に対人格闘要素が加わったのが散打といえるでしょう。
カンフーにまつわる最大の誤解は？
たいていの人は、武術はただの〈踊り〉だとか、カンフーはひとつのスタイルだと考えています。でも、カンフーというのは総称です。そこには様々な流派があり、それぞれ異なる型を教えています。
カンフーというと、ブルース・リー（Bruce Lee）を思い浮かべる人が多いですが、カンフーの型は、彼のスタイルだけではありません。
YouTubeには、ボクサーや総合格闘技の選手が〈カンフー・マスター〉に挑んで見事勝利する動画がたくさん投稿されています。総合格闘技の大会で闘うとしたら、どの流派がいちばん優れていますか？
どの流派にも強みと弱点があります。使えるものを学び、自分に合わないものは切り捨てるのが大切です。ひとつの流派にこだわらなくていい。ただ、それと同じように、ある流派の技を活かすも殺すもその人次第です。長年経験を積んだ使い手であれば、相手を殺すこともできます。でも、昨日トレーニングを始めたばかりの初心者には、もちろん、カンフーの表層しかわからないでしょう。
個人的には、いちばんシンプルで習得しやすいカンフーは詠春拳です。応用が利くし、覚える型もそれほど多くない。無駄な動きが少なく、あくまでも私個人の考えですが、実生活にも活用することができます。反対意見もあるかもしれませんが、私の経験ではそうです。
あなたが今までに見たカンフーマスターの技のなかで、いちばん驚いたのは？
うーん…鉄パイプ、セメント、大きな氷とか、硬いモノを折ったり割ったりする技はよく目にしますよね。私がこれまで見たなかでいちばん衝撃的だった技は〈鉄のシャツ〉でしょう。身体の然るべきところに気を集めて、素手や武器の攻撃に耐える技です。私の師匠も習得していました。
カンフーマスターが習得する技で、あまり知られてないものは？ 普通の人には想像もできないような技はありますか？
先ほどもいった〈鉄のシャツ〉がそうです。宙に浮くとか、ものすごく高くジャンプするのは、TVのなかだけの話ですから。もし私たちにそんな知識があったら、オリンピックで走り幅跳びや高跳びのメダルを獲っているはずです。
気とは何ですか？ どうしたら高められるんでしょう？
気は人間に備わったエネルギーのようなモノです。〈静〉〈動〉どちらかの状態でそれは存在しており、呼吸法や瞑想など、特別な方法によって練ることができます。これは、師匠の指導のもとで学ばなければいけない技ですから、独学は危険です。適切な指導を受けなければ、動脈が破裂したり神経が切れることもあります。
〈鉄卵術 〉について教えてください。股間を蹴られても、タネがなくならないんですか？
もちろんです！ 睾丸に気を集めて、車を引っ張れるまでに強化するのが〈鉄の卵術〉です。でも、これは少林拳の技です。少林拳の僧侶たちはとても厳しい修行を積んでいるので、ペニスで車を引っ張れますよ。
ブルース・リーの師匠、イップ・マン（Ip Man）もこの技ができたそうです。彼には子どもがいたので、生殖機能に大した影響はないんでしょう。
どうすればそんなことができるんですか？ まずは何か特別なエクササイズをするんですか？
気功によって陰嚢腔のなかに睾丸を引き入れる、という方法があります。実際に試したことはありませんが、睾丸を腹のなかに引っこめることで、この技が完成するそうです。
気功を使えば、何かに火をつけたり宙に浮かせたりできるんですか？
いや、それは超常現象の領域です。普通の人間と同じで、超常的な何かの助けがなければ、そんなことはできません。
１日のトレーニングの流れを教えてください。
私の日課は、技を磨くトレーニングと身体を鍛えるトレーニングの２種類に分けられます。身体の鍛錬は、技に反映されます。ランニング、腕立て伏せ、腹筋、そして、強い身体をつくるためのごく普通の体調管理です。技を磨くには、型と応用が大切です。身体を鍛えても技がなっていなければ意味がないし、その逆も同じです。
伝統的なカンフーの未来について、どのように考えていますか？
伝統的なカンフーは、もっと時代に寄り添わなくてはなりません。私たち指導する側も、伝統にとらわれすぎてはいけない。例えば、スマートフォンは、毎年のように進化したモデルが発売され、古いモデルはどんどん時代遅れになっていく。古いモデル、古い技術にこだわり続ければ、時代に取り残されてしまう。伝統を守りつつ現代的な要素を取り入れることが大切です。
