プラスサイズの男性同性愛者がマッチングアプリで直面する現実

現実のゲイコミュニティが抱える根深いボディ・シェイミング(体型への誹謗中傷)問題。その差別は、マッチングアプリのなかでも広まっていた。

私はずっと自分の身体が嫌いだった。あるべきでない場所に肉割れや膨らみがあったからだ。数年前に男性同性愛者としてカミングアウトした私は、これでやっと楽になれる、みんなに受け入れてもらえると信じて疑わなかった。しかし私はすぐに、ゲイコミュニティにおけるボディ・シェイミング(body shaming:体型への誹謗中傷)の根深さに気づかされることになる。

「痩せすぎ、肥満、女々しい男NG」「男らしい男だけ」「デブと年寄りお断り」「みんなごめん、僕はデブなんだ」

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これらはすべて、私が今朝Grinderのプロフィールで目にした文言だ。どうして自分はこんなアプリを再びダウンロードする気になったのだろう。最後に目に入った1文にはひどく心が痛んだ。果たして、この世に自分がプラスサイズであることを謝らなければいけない人間なんているのか? 私も謝るべきなのか?

カミングアウトした当時、私は同性愛者のためのマッチングアプリが豊富にあるこの時代に、大いに期待していた。愛を、または一夜限りの相手を求めて、インドネシアのゲイカルチャーに飛びこむ準備は万端だった。あのころの私はただの世間知らずだった。にんまり笑う丸顔、分厚いメガネ、オーバーサイズのTシャツとパンツ、そんな私の写真を見たひとが一瞬で私を〈好ましくない〉と判断するなんて、想像もしていなかったのだ。私の誘いを断ったり無視した男性は数百人。よく自分を誘えたな、などと罵られたこともある。

長年観察した結果、男性同性愛者は、体型を判断するさい、ストレートの男性以上に手厳しいことがわかった。彼らは〈厚かましさ〉を差別の口実にしている。だが、差別は愉快でも無邪気でもない。残酷だ。多くの男性同性愛者がボディイメージに悩みを抱えるのも当然だろう。彼らはジムで古代ギリシャの神々のような肉体を目指してトレーニングに勤しむ。さらに、マスク(masc:男らしい男)、フェム(femme:女っぽい男)、ジョック(jock:逞しい男)など、呼び名によってプレッシャーをかけられる。特にジャカルタのような大都市では、ファッションセンスや振る舞いも重視される。

何年も葛藤し続けた結果、私はようやく自分の外見に折り合いをつけられるようになった。確かに外見だけで頑なに拒否してくるひともいるだろう。でも、承認欲求は人間の生来の欲求だ。私だってありのままの自分を認めてもらいたい。そう願うひとは少なくないはずだ。

男性同性愛者数名にコンタクトをとり、彼らが自分を愛せるようになった経緯を語ってもらった。彼らの安全を考慮して本名は伏せている。同性愛者である私たちは、ユニークなペンネームを好むのだ。

チェリー・フォックス( Cherie Fox )25歳

ずっと外見のせいで自信がもてなかった。あるデート相手には、面と向かってブサイクとけなされた。僕に「同情した」からデートしてあげたんだ、と彼はいってた。会う前はしつこくデートに誘ってくるのに、顔を合わせたとたんに何とかしてデートを切り上げようとするひとも多かった。そんな出来事のせいで「ああ、僕には何かダメなところがあるんだ」と感じるようになった。

だからトレーニングを始めた。健康のためだけじゃなくて、この国のゲイコミュニティに馴染めるようになりたくて。トレーニング、自分に似合う服選び、毎日のスキンケアなど、自己管理を徹底している。今までずっと、自分は誰にも受け入れてもらえないと思ってた。でも、努力は報われてる。今ではだいぶ自信もついたし、モテるようになった。

ギル( Gil )23歳

ジョグジャカルタのゲイコミュニティはかなり小さくて、似たようなひとが集まってる。だから、僕みたいに性的指向を隠そうとしないひとが相手を探すのは難しい。Grindrが登場してみんなが使い始めると、僕はすっかり自信を失くした。自分の写真をシェアすると、だいたい速攻でブロックされるか、ヒゲがないとか「ヒップスターっぽすぎる」「クィアっぽすぎる」っていう理由で拒否された。まったく意味不明。

あのころは、自分がいわゆる男性同性愛者の普遍的な美の基準を満たしてない気がしてた。だから外見を変えることにした。クロップドトップスではなくもっとカジュアルで男らしい服を着て、髪を染めるのもやめた。でも、そんな自分の愚かさに気づいたんだ。自分らしさに自信をもてるようになった。他人を喜ばせるために別人になる必要なんてないんだから。

トム・ベリー( Thom Berry )28歳

おデブ、ぽっちゃり、ブサイクって散々けなされてきた。GrindrやJack’dでもバカにされて、すごくツラかった。実際に会ってからいってみろ、と彼らを挑発したことも何度かある。でも、いつもブロックされた。ある意味彼らに同情したし、わざわざ返信して時間を無駄にした自分も哀れになった。それでヤケクソになった。当時僕は19歳で、まだ童貞だった。自分にイケメンの彼氏なんてできるわけがないと思ってたから、セックスの相手は誰でもよかった。しばらくはそれでうまくいっていた。

でも、何年か経つとうつ状態になって、自殺すら考えた。鏡に映る自分を見るのが嫌だった。自分の太もも、胸、足、何もかもが嫌いだった。そういう気持ちは完全には消えてないけど、今は自信も勇気もわいてきたし、自分の価値も認められるようになった。太ってることに変わりはないけど、友だちはそんな自分を愛してくれる。それだけで充分。