Environnement

4000匹以上のサルに貢物 ─ モンキー・ビュッフェ・フェスティバルの現場をレポート

photos of thailand's monkey buffet festival in lopburi

この祭りに来る前、猿の数がとんでもなく多いという話は聞いていたし、もちろん前年までの写真も見てきた。

しかし、実際に大挙して押し寄せる飢えた野性のカニクイザルの群れの真ん中に立ち、映画『ハンガー・ゲーム』のように食べ物を思い切り口に詰め込む様子を目の当たりにすると、完全に圧倒された。これほど多くの猿を見るのは人生で初めてだ。しかもごちそうを振る舞われる猿なんて、もちろん見たことがない。

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昨年11月、タイ中部で開催されたモンキー・ビュッフェ・フェスティバル。最悪の旅行先だと思うひともいる一方で、30年以上毎年開催されてきたこの狂乱に参加するためにタイの首都バンコクから北に約150キロほど離れたロッブリー(Lopburi)を訪れる物好きな観光客も少なくない。このユニークな伝統は、街の遺跡で長年暮らしてきた数千匹の猿に敬意を払うべく、1989年以降、毎年11月の最後の日曜日に開催されてきた。

ごちそうが到着するたびに修羅場と化すこのモンキー・ビュッフェは、世界の奇祭のひとつと言えるだろう。

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仲間を装ってビュッフェのテーブルに近づいた敵に威嚇する猿。PHOTO: TEIRRA KAMOLVATTAANVITH

「2022年は100個以上のテーブルに約2トンの野菜とフルーツを用意しました」と祭りの創始者で地元の経営者のヨンユット・キットワタヌサン(Yongyuth Kitwatanusont)はVICEに語った。

彼は無計画にごちそうを振る舞っているわけではない。長年ロッブリーの主要な観光産業のひとつとなっているビュッフェは、彼が愛する故郷を宣伝する手段なのだ。「この祭りはロッブリーに多くの観光客を呼び込み、地元の経済を活性化させました」と彼は説明する。「海外からの観光客に、ロッブリーの魅力を知ってほしいんです」

この祭りが開催された30年間で、ヨンユットは猿の数が10倍以上になったと語る。「祭りを始めた当時は300匹ほどしかいませんでしたが、今は約4000匹です」

ヨンユットはこれらの飢えた猿たちが彼自身、そして多数のロッブリーの住民たちにとって理想的なビュッフェ客とは限らないことを認めつつも、地元のコミュニティにとって重要で必要不可欠な存在だと語った。

「猿は人間に似ています。観光客からものを盗むこともありますが、ロッブリーの猿は非常に長いあいだ人間と共に暮らしてきました」

祭りが始まって以来、小さな咬み傷や引っ掻き傷を除いて、深刻な事故や大けがはないとヨンユットはいう。「ですが、常に万が一に備えています」と彼は付け加え、会場にはいつでも治療できるように医療関係者や救急車が待機していると説明した。

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猿が駆け回るロッブリーの路地に立つ、祭りの創始者で地元の経営者のヨンユット・キットワタヌサン。PHOTO: TEIRRA KAMOLVATTANAVITH

クメール時代の寺院プラーン・サームヨートの前にあるビュッフェ会場付近は、猿が数百年前から生息する霊長類のホームグラウンドといわれている。

プラーン・サームヨートは、13世紀に多種多様な猿を含むさまざまな動物が暮らしていた森林地帯に建てられた。当初はヒンドゥー教の寺院だったが、のちに仏教寺院に変わった。寺院を取り巻く町が徐々に広がり、今のロッブリー県へと発展していくなかで、森の猿はこの地に残り、地元住民と共存してきた。

町の人びとの大半は、これらの猿を類人猿の神ハヌマーンの直系の子孫だと信じているため、歓迎──もしくは少なくとも我慢──してきた。この信仰は、『ラーマーヤナ』のタイ語訳『ラーマキエン』の中にある、この地域に猿が多い理由を説明する神話に由来する。

この有名な民族叙事詩によると、ハヌマーンがプララーム(ラーマ)の敵である鬼神トサカン(ラーヴァナ)を倒すのに手を貸したあと、彼はのちにロッブリーとなる町ラーウォの王に任命される。猿の王は、この町に猿の軍隊を送った。この猿の子孫がコミュニティを形成するようになり、今の私たちが知る猿だらけの町が完成した。

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祭りの最中にプラーン・サームヨートの看板にのぼる2匹の猿。PHOTO: TEIRRA KAMOLVATTANAVITH

この伝説は、他の住民と同様、祭りの創始者ヨンユットの人生にも多大な影響を与えている。

「私の会社のロゴは猿のハヌマーンです。そのおかげでうちの商売はずっと繁盛しているんです」と彼は言う。「毎年仕事が成功するたびに、彼の子孫である猿たちに祈り、祝賀会を開いています」

ヨンユットが1989年に最初のビュッフェを開催したときは、彼の会社の成功を祝う小規模で内輪だけのイベントだった。彼が驚いたことに、このビュッフェが多くのメディアに取り上げられ、その後数年で世界中から観光客が訪れる大規模なイベントへと発展していった。「当時は世界の注目を浴びて、これほど長く続く祭りになるとは思ってもいませんでした」

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次のご馳走に備えて、数十台のテーブルいっぱいに並べられた食べ物。PHOTO: TEIRRA KAMOLVATTANAVITH

今回の祭りでは、4回にわたって食べ物がサーブ(供給)された。サーブが始まる前、主催者とボランティアは数十台の丸テーブルの最後の仕上げに追われていた。どのテーブルにも、果物や野菜、その他のスナックが乗った皿がぎっしり並んでいた。スタッフが3人がかりでテーブルを持ち上げ、飢えた猿たちが待ちわびている道の向かい側へと運んだ。

テーブルの脚が地面に触れる前から、数十匹の猿が飛び乗り、食べ物を掻き込み始めた。さらに多くの猿が、床に落ちた食べ物を狙ってテーブルの下に潜り込んだ。

私がそこに立ち尽くし、果物の皿に襲いかかる3匹の猿に心を奪われていると、1匹の猿が肩に飛び乗り、バックパックの中を漁り始めた。幸運なことに、その猿は私が食欲をそそるものを持っていないと判断するとすぐに興味を失い、次のターゲットに飛び移った。

「気をつけて!」と私は近くの観光客グループに向かって叫んだが、時すでに遅しだった。わずか数分後には、プラーン・サームヨートの遺跡の前のビュッフェ会場は茶色の毛皮、尻尾、鳴き声が飛び交う無秩序な嵐と化した。

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猿のウェイターの像に乗ってバナナをかじる子猿。PHOTO: TEIRRA KAMOLVATTANAVITH

猿たちはあらゆる食べ物──もしくは目に入ったものすべて──に飛びかかり、食べカスやゴミが宙に飛び散った。

モンキー・ビュッフェ・フェスティバルには2種類の参加者がいるようだ。前者は、文字通り諸手を挙げて猿を歓迎するイダン・シャロン(Idan Sharon)のような人びとだ。1日を通して、私はこの恐れ知らずのイスラエル人観光客とその恋人のカテリーナ・ペトロフ(Katerina Petrov)が自由奔放な猿たちに食べ物を与え、遊び、抱き上げ、さらには揺らしてあやす姿を何度も見かけた。

「自分によじ登ってきてほしかったから、食べ物をのせてみた」と彼はニンジンを食べる猿を頭にのせながらVICEに語った。

シャロンは何度か咬まれたり引っかかれたりしたというが、多数の猿たちと楽しい時間を過ごしていた。「いや、最高だよ。全然気にならない。楽しいからね」と彼は傷に全くうろたえることなく答えた。

シャロンが恋人と入念な準備をしてここに来たと聞いて、私は心底ホッとした。「猿に餌をあげる予定だったから、イスラエルでいろんなワクチンを打ってきた」と彼は説明した。彼が後で送ってくれたリストには、2種類の狂犬病ワクチン、2種類の破傷風ワクチン、ウイルス性肝炎ワクチンなどが含まれていた。

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モンキー・ビュッフェ・フェスティバルで猿と触れ合うイスラエル人観光客のイダン・シャロン。PHOTO: TEIRRA KAMOLVATTANAVITH

一方で、チェンマイから来たワンチャナ・ダオテワン(Wanchana Daothewan)のように、比較的安全な距離から一連の騒動を見守りたいという控えめな参加者もいた。

「最初に通りを歩いたとき、猿は2〜3匹しか見かけなかった。でも(会場の近くに)歩いていくと大群がいたので、怖くなった」と彼女はVICEに語った。

「小さい頃に、ロッブリーにはたくさん猿がいると聞いたことはあったけど、こんなにたくさんいるとはね」と彼女は笑った。

2種類の参加者の中間にいたのが、今回が2回目の参加で、チャチューンサオ(Chacheongsao)から子どもたちを祭りに連れてきたという父親、チャナシン・サンライ(Chanasin Sangrai)だ。

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人間のことなどお構いなしに、タイ人観光客の肩でくつろぐ猿。PHOTO: TEIRRA KAMOLVATTANAVITH

「子どもたちは大興奮だった。毎年連れていってほしいとせがまれるんだ」と彼はVICEに語った。家族の安全や健康が心配ではないか、と尋ねると、彼は以前知ったという安全のための裏技を教えてくれた。「少し不安はあるけど、輪ゴムを持っていくように言われた。よじ登ってこようとする猿に向かってはじくんだ」

「噂とは違って、猿はみんなが思うほど怖い生き物じゃない」と彼はいう。

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混乱のまっただ中で、次のターゲットに狙いを定めながらタイのスイーツをかじる猿。PHOTO: TEIRRA KAMOLVATTANAVITH

猿に囲まれた嵐のような1日を過ごし、自分が無傷で帰ってこられたことが未だに信じられない。モンキー・ビュッフェ・フェスティバルは万人受けするイベントではない。個人的には気分がスカッとしたが、それでも今までに見たこともないような、神経がすり減る体験だった。

ハヌマーンの伝説を聞きながら育ったタイ人として、この祭りは一風変わった言い伝えの継承。そして、その伝説の続編が目の前で起きているような感覚を覚えた。

考えてみてほしい。ごちそうを楽しむ猿の神たちに囲まれて大騒ぎできる機会は、この先の人生でどれほどあるだろうか。

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ロッブリーの無料のビュッフェを存分に味わう猿たち。PHOTO: TEIRRA KAMOLVATTANAVITH

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