強い色彩や目を惹くキャラクターなど、表層の印象しか情報を処理できないほどのパワーを持つ作品。しかし、そこだけに捕らわれてしまっては、何も見えてこない。 田名網敬一は、何を描こうとしているのか? 全3回に渡り、その世界を探る。
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Do you see anything? 田名網敬一 記憶の集積から生まれる異界.01

強い色彩や目を惹くキャラクターなど、表層の印象しか情報を処理できないほどのパワーを持つ作品。しかし、そこだけに捕らわれてしまっては、何も見えてこない。 田名網敬一は、何を描こうとしているのか? 全3回に渡り、その世界を探る。
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©️Keiichi tanaami

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©️Keiichi tanaami

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©️Keiichi tanaami

〈ヤバイ〉〈エロイ〉〈グロイ〉〈カッコイイ〉〈カワイイ〉〈キレイ〉〈スゴイ〉。

田名網敬一の作品を目にした人が、まず抱くのは、このような、直感的な感情だろう。ただ、慣れ親しんだSNSを見るように、田名網の作品を数秒だけ見つめただけでは、とてもとても理解できない。〈ヤバイ〉〈エロイ〉〈グロイ〉〈カッコイイ〉〈カワイイ〉〈キレイ〉〈スゴイ〉の先にある、真意は掴めきれるとは思えない。

SNSによる「誰が何をしているのか」的なたわいもないゴシップ画像なら、数秒で事足りるが、田名網の作品、あるいはアート作品全般に言えることだが、作品を見つめ続け、自分なりに解釈するところまで至らないと、おそらくは、価値を見出せないのではないだろうか?

そこで、田名網敬一とadidas Originalsとのコラボレーション〈adicolor by Tanaami〉のリリースを機に、全3回に渡り、改めて、田名網敬一の作品の真意を探りたい。 この記事では、〈adicolor by Tanaami〉を記念したパーティーに集まった人々に、田名網作品の魅力を聞いてきた。まずは、田名網作品を紹介するとともに、田名網敬一に熱狂する者たちの声をお届けする。

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インスタレーションを中心に、社会に対する疑問を投げかけ続けるアーティスト集団、Chim↑Pom のエリイは、田名網敬一の人柄を「何より元気。スゴイお酒も飲まれるし、ご飯のスピードも誰よりも早いし、仕事のスピードも早く、量も多いっていうタフさ、タフを超えているのが魅力ですね。それでいて飄々としていて」と答えてくれた。続いて作品について聞くと「田名網先生の風呂敷とか、購入して持っているんですけど、この世界観って日本にしかないし、他のどこの国で育っても、生まれないものだと思うんですよ。それってオリジナリティーがあるってことですよね。この彫刻も、すっごい、よくできてるなって思っていて、ここまでのクオリティーが出せるっていうのは、作ったかたとの意思の疎通が、しっかりできてるってことだし、ここまで良い造形師さんと出会えるっていうのも、力のうちのひとつだと思うし、見習っていきたいなって思ってます」

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ニューヨークを拠点に活躍する写真家、Sandy Kimは「田名網さんは、ポップアートも入っているし、色んなジャンルをミックスしているところが、すごく面白い。同時に、作品を見ていると、田名網さんの人生を表している気がします。今までの経験とか、もしかしたら、考えていることも描いているのかな? それを、すごくトリッピーでサイケデリックな感じでアウトプットしていて、何よりダイナミックさを感じます」

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田名網敬一と同じ〈NANZUKA〉ギャラリーのアーティストで、セクシーロボットやAIBOのデザインでも知られ、昨今は、DIOR HOMMEのコレクションでも話題を集めたアーティスト、空山基に聞くと「田名網さんは、お年なのに、このエネルギッシュさっていうのは、ものすごい眩しいんですよ。だから、先達としてついていきます。でも、、、。さっさと死んじゃってください、目障りですから(笑)。早く私の天下にしたいんだけど、無理かな、、、。こんなエネルギーないもの」

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田名網敬一の信奉者を公言し、師と仰ぐ、映像作家であり、〈現在〉美術家の宇川直宏は「さっき会田誠さんとも、お話していたんですけど、老いて、なお、キャンバスでの描写密度が、ドンドン濃密になっていくのが、最もヤバイところですよね。老いるっていうことは、枯れかたの美意識だと思うんですけど、田名網先生は、まるっきり反比例していて、作品が年々より強烈に発情してるじゃないですか? 御年82歳にして、こんなにも作品にエネルギーがますます迸り続けているアーティストは他に例がないですよね。年を重ねる都度、若く、絶倫になっていらっしゃっる、逞しい師匠です。
また、僕は田名網先生の弟子なので、先生の作風を、ここ40年くらい時系列で追い続けていますが、常に〈田名網敬一の今が、1番ヤバイ〉と感じてしまうところが驚愕ですよね」
田名網作品について宇川はこう唱える。「敗戦国日本が、昭和の経済成長を通過して、バブル以降のオタク的な平成高度消費を経て、いかにポップカルチャーを肥やしにしながら進化していったのか。さらに視覚表現とメディア的な角度から考えるならば、パピルス、活版印刷、デスクトップパブリッシングの歴史的変遷を経て、グラフィック・アイコンが、いかにアップデートされてきたのか。そして、現在、グラフィックは、消費を煽るデザイン的トリガーではなく、ファイン・アートの文脈に食い込んでいる。そんな日本のグラフィズムの歴史そのものを背負っているのが、田名網先生の作品だと思います。同時に、先生が戦争体験者として目撃した焼夷弾の閃光に照らされた畸形の金魚、防空壕のなかで聞いていたラジオ、敵国アメリカのコミックカルチャー、そういった世界史のなかでの先生の体験と生きざまが、いちフレームにおさまっているので、掛け替えのない体験として見るものを魅了する。村上隆さんが日本画とセル画の平面的な視覚表現を、ファインアートと日本のポップカルチャーを接続することで、スーパーフラットの文脈を構築し得ましたが、その20数年前に既に田名網敬一がいたという歴史的発掘が、現在なされていると思います。つまりサブカルチャーの側からも、コンテンポラリーアートの側からも、今もなお生き続け、発掘され続けている存在… そんなまさに〈リビング・レジェンド〉が、田名網敬一だと思います」

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Photo By Reiko Touyama

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Photo by Noriko Shinohara

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Photo by Noriko Shinohara

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Photo by Noriko Shinohara

田名網敬一が10代の頃、美術予備校で出会ってから苦楽をともにしてきた、ぎゅうちゃん先生こと、篠原有司男は「最初出会ったころは、友達が誰もいないから、とにかくダーッといったら、ワーッて感じだね(笑)。僕は銀座を、いいことないかと思って、いつもぷらぷらしてたからね。そのとき田名さんは、銀座の貸画廊をちゃんと借りて、グループ展をやっているわけ。だから、『飾り付けに絶対手伝いにいくから』っていってたんだよね。その展示の準備が終わったら、沢田重隆さんっていうグループの兄貴分がいて、皆でご馳走になるわけ。ご馳走っていってもラーメンだよ。そのラーメン1杯を目指してやるわけよ。田名さんはあんまり関係ないんだよ(笑)。でも、一緒に帰るでしょう。他は真面目な人たちで、田名さんは俺と同じ江戸っ子だし、話が合うわけよ。それで家まで、ずっと最後までついていくわけ。何か、うどんでも食うなと思ったら、この辺で食おうかっていうわけよ。俺は必ず力うどんっていうの(笑)。田名さんは、肉がそんなに好きではないから、力うどんに入ってる肉は俺にくれるわけよ(笑)。
それで、田名さんが、武蔵美を卒業したころ、当時のデザイン界の登竜門だった〈日宣美展〉で特選を獲ってスターだからさ。それで仕事がバンときて、マンションの部屋を借りたわけよ。それがまた素晴らしいんだよね。六本木でマンションを持ってる友達だよ。だから、『それいけ』ってさ。布団を持っていきたいくらいだったよ(笑)。そこでずっと泊まって朝飯を一緒に食いにいくわけよ。そのときは何食おうか?ってなったらコロッケね。コロッケにお醤油をかけるんだけど、一升瓶のお醤油があるわけよ。俺は、1回に7個くらい食うからさ。一升瓶がからになってきたら、瓶の底でゴキブリがいっぱい死んでるんだよね(笑)。それはびっくりしたね。ゴキブリの汁をずっと飲んでたんだね(笑)」
当時、2人が影響された物事について尋ねると「当時は、インフォメーションが薄いのよ。白黒の写真とか映像しかないわけよ。でさ、それをみて想像力を爆発させなきゃならない。なかでも、田名さんと、俺が1番気が合ったのが、ワンダーウーマンだね。素っ裸みたいなやつがさ(笑)。あとは、スーパーマンとか、バットマンが載ってるDCコミック。それだったら俺たちの小遣いで買えるんだよね。
あとは、映画。その頃の映画館って、アメリカの政策に沿った、アメリカ素晴らしいっていう映画ばっかりで、日本の国民にみせて、洗脳するために映画を使ったわけ。それでアメリカは、すごいというものばっかりみせられて。そういうのから、だんだんアートに熱中していくんだよ。田名さんの作品にも滲み出るっていうか浸かってたんじゃないかな。あとは、そのときの田名さんの場合はね、デザインと一緒にメタリックアートっていうのをやってたのよ。アルミのビカビカのシートをね、駐車場に持ってって、いろんな液体をぶっかけてね、ものすごいの。一緒にグループ展で出したことあるよ」
交友関係を聞くと「友達とかも田名さんに随分紹介したよね。芸大の絵も描かないで酒ばかり飲んでる連中がいるわけよ。だからその連中と付き合い出したら、急に輪が広がっちゃって。舞踏の土方巽だって下っ端でいるわけ。それで話してるうちに土方も影響されちゃうんだよ。こっちはメタリックアートとかめちゃくちゃでしょう。俺がモヒカン刈りをやったときに、土方もすごく感動して眉毛を剃ったんだけど、全然様にならないんだよね。だけど、だんだん強烈になってきて、あそこまでいくんだけどさ」
その後、篠原有司男は、ニューヨークに移り住み、アート活動をするのだが、田名網が画集を出すたびに、送られてきていたというように交友関係は続いていく。「うらやましかったよ。アメリカで出したことある日本人なんて、ひとりもいないよ。まず、作品の写真がないでしょう。撮るやつがいないし、印刷所だってわからないでしょう。レイアウトとか本づくりとか、絵描きは誰も知らないもん。画材も買えなくて、絵もロクに描けないのに画集なんて。ただ、スタイルとか、アートが、どうのこうのは一切なしね。もうエネルギッシュで、みてて、いってるなって感じがするもん。最近もロケット的にいってるんだけどさ。そういうのは悔しいというか、いいなと思ったね。
あとは、日本にいるときは、田名さんと一緒に机を並べて描いたこともあるから、画用紙もペンも全部もらって。田名さんとの付き合いで習ったのは、レイアウトのやりかたっていうかさ、ちょっとはみ出すとかテクニックあるんだよ。もちろんスクリーントーンの使いかたとかさ。その後、ポップアートに活かされるんだけどね。
だけど、最近もすごいよね。俺もそうだけど、パワーじゃないよ。パワーじゃなくて、好奇心。自分に好奇心があるんだよ。自分のなかに何かあるんじゃないかな? と思ってほじくりだして、人からみるとパワフルにみえるんだよ。モハメド・アリと殴り合ったりすれば俺も負けるしさ。マイク・タイソンが来たら殺されるし。絵の世界、全体に好奇心があるだけ。それを追いかけて、追いかけて。コロッケの時代があるからさ。ただ、俺も近眼だから、田名さんの作品は、あまり細かいところはみえないんだけど、こんなん、なってるから疲れちゃうよね(笑)」

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Photo By Reiko Touyama

また、今回の〈adicolor by Tanaami〉の生みの親である、adidas Originalsのグローバル・アパレル部門を統括する、中濱淳星に話を聞いた。adidasはスポーツ、音楽、ファッション、アート、この4つを柱として展開しているという。スポーツは、もちろんとして音楽やファッションとの連動を周知している人も多いかと思うが、adidasとアートについては、まさに、田名網敬一との、このプロジェクトを皮切りにスタートさせていくという。

「今回のプロジェクトのきっかけは、ふたつあります。ひとつはadidasがスポーツの世界でパイオニア的な存在であったことを前提に、 adidas Originalsとして、オリジナリティーをリスペクトするという価値観を大事にしていまして、それをベースにパートナーを探していたところ、過去に繋がりがあった田名網先生の名前が出てきたんです。オリジナリティーを大事にしていきたいブランドのポジションと、我々のネットワークのなかで圧倒的にオリジナリティーを持ってらっしゃった先生の存在が合わさって、このプロジェクトが始まりました。
もうひとつは、僕の勝手な解釈かもしれないですけど、戦後、一部のグラフィック・デザインがアートというものに変貌していくシーンのなかで、田名網先生は圧倒的なオリジナリティーで、すごい存在感をずっと出されていて。広告的な用途の作品と、純粋なアート作品には、距離感があったと思うんですけど、先生の人生において、そのなかの交差点を楽しんでいるというか、飛び越えていらっしゃる。それが、僕がいちばんいいなと思うところですかね」
さらに、adidasが進めるアートプロジェクトについて聞くと「人間は動物だから体を動かすことが大事なんですが、余暇が増えた現代社会において、規律を持って体を動かそうってなったときに、スポーツみたいなプラットフォームは最適だと思うんですよ。それと同じように、体を動かさない余暇、つまり、考えを巡らし頭の中で想像し、運動をするのが、ファッション、音楽、アートだと思うんです。そのときに、ベースが必要になってくると思うんですよね。だからこそ、adidasというブランドが、いろんな世界の違うスタンダードを、プラットフォーム化していくというか、いろんな価値が繋がっていくベースの役割をしていきたいって思うんですよね。そういうベースのなかで、スポーツ、音楽、ファッション、アートという4つの領域を、ひとつのブランドのなかで、いろんな国とか地域、カルチャーを繋げていけるということが、僕らの大事な役割だと思っています。今回のアートプロジェクトは、まだまだ序盤の出だしで、あまり大きなことはいえないですけど、僕らがプラットフォームになることで、まだ知られてない価値とかが広がったり、繋がるならいいなというのがベースにありました」

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Photo By Reiko Touyama

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Photo By Reiko Touyama

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©️Keiichi tanaami

このように、様々な人々が、田名網敬一の作品について、異なる捉え方をしている。そこには〈ヤバイ〉〈エロイ〉〈グロイ〉〈カッコイイ〉〈カワイイ〉〈キレイ〉〈スゴイ〉を飛び越え、作品から自分自身で想像し、自分自身の中に取り込んでいるのが、よく理解できる。多くの人々がおこなう〈見る〉という行為だが、同じ〈見る〉という言葉でも、人によって、見方によって見えてくるもの、得られるものが異なってくる。

次回は、田名網敬一の作品と言葉をたよりにおこなった〈adicolor by Tanaami〉のファッションシュートの模様をお送りする。

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Photo By Yusuke Yamatani Styling By Tatsuya Shimada


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アディダスグループお客様窓口 TEL 0570-033-033(土・日・祝除く 9:30~18:00)