幻覚剤が使用されていた最古の証拠をヨーロッパで発見

今から3000年前、人間はスペインの洞窟でトリップ体験を味わっていた。
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Images: ASOME-Universitat Autònoma de Barcelona.

今から約3000年前、スペインのメノルカ島に住んでいた古代人は、おそらくシャーマンが行う儀式の最中に、マンドレイクやジョイントパインなどの植物から、向精神作用のある薬物(ドラッグ)を摂取していた。このたび発表された論文によれば、これは現在発見されているなかで、ヨーロッパで幻覚剤が使われていた初の直接的な証拠だという。

この論文は、メノルカ島のエス・カリッチ(Es Càrritx)洞窟に埋葬された毛髪から発見された精神活性物質について詳しく説明している。これまでのヨーロッパでの発掘からも、陶器やパイプのような遺物から薬物使用の間接的な証拠は見つかっていたものの、人間の遺体から向精神作用のある物質が発見されたのは、今回が初めてだ。

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この発見は、世界の古代文明における薬物使用の知識を広げ、紀元前1600年頃からおよそ1000年間住居として使われていたエス・カリッチ洞窟から出土したなかでも、特に風変わりな新事実といえる。洞窟の小部屋には200人以上の遺体とともに、このコミュニティの複雑な儀式と伝統を垣間見せる、謎めいた貴重な遺物が残されていた。

洞窟の中で最も研究チームを困惑させたアイテムは、赤く染められ、葬儀中に故人から切り取られた毛髪の入った、木やシカの角でできた精巧な筒だ。なかには、この儀式のスピリチュアルな側面を暗示するかのような、鮮やかな色の同心円がフタに描かれているものもあった。

今回、バリャドリード大学先史考古学准教授のエリサ・ゲラ・ドセ率いる考古学者チームは、高度な技術を用いて、青銅器時代の毛髪から精神活性物質のエフェドリン、アトロピン、スコポラミンを発見した。学術誌『Scientific Reports』に4月6日に掲載された論文によれば、この結果は「植物由来の薬物の摂取を示す直接的な証拠を提示し、さらに興味深いことに、複数の精神活性物質の使用を明らかにした」という。

「保存状態の良い人間の毛髪は考古学的に貴重なものなので、これは生体サンプルの薬物濃度を測定する滅多にない機会でした」とゲラ・ドセ准教授はMotherboardへのメールで述べた。

「エス・カリッチで行なった植物分析からは植物由来の薬物の痕跡は見つからなかったため」、薬物の陽性反応に「とても驚いた」と准教授は語る。

スペイン人による征服以前のアメリカ大陸のミイラ化した遺体、先史時代の中国の人骨、鉄器時代のベトナムの歯のエナメル質など、他の大陸ではすでに、人間の遺体から精神活性物質の使用を示す直接的な証拠が見つかっていた。薬物使用の間接的な証拠も世界中で広く確認されていて、精神活性物質は多くの先史文明や古代文明の生活の一部だったことがうかがえる。

古代の欧州人もこのような薬物使用者に属していたことを確認するため、ゲラ・ドセ准教授と彼女のチームは、エス・カリッチの毛髪サンプルを、超高速液体クロマトグラフィーと高分解能質量分析という検査技法で分析した。

研究チームは、アトロピンとスコポラミンの発見はマンドレイク(Mandragora autumnalis)、ヒヨス(Hyoscyamus albus)もしくはシロバナヨウシュチョウセンアサガオ(Datura stramonium)などのナス科の植物に関連している可能性があると考えている。これらの植物は幻覚やせん妄を誘発する一方で、ジョイントパイン(Ephedra fragilis)に由来すると考えられるエフェドリンは、覚醒効果のある興奮剤だ。  

「興味深いことに、今回発見された精神活性物質には、エス・カリッチ洞窟に埋葬された集団から確認された根尖周囲膿瘍、重度の虫歯、関節症など、重篤な古病理学的な症状に含まれる痛みを和らげる効果はない」とチームは論文で述べる。

「毛髪から発見されたアルカロイドの潜在毒性を考慮すると、当時の(精神活性物質の)取り扱い、使用、応用は高度な専門知識を要するものだった」と研究チームは続ける。「このような知識は通常シャーマンが有していたもので、シャーマンは診断や占いを可能にする恍惚状態を通して、植物由来の薬物の副作用をコントロールすることができた」

ゲラ・ドセ准教授とそのチームは、乳幼児や妊娠した女性が墓室の埋葬から除外されていた理由や染髪の儀式の重要性、そもそも人びとが絶壁の高所にある洞窟に入った理由など、後続研究によって洞窟やその居住者の秘密が解明されることを願っている。

しかし、ひとつ確かなのは、古代の人びとは子孫に伝統を受け継ぐ努力をしたにもかかわらず、このような儀式は紀元前800年頃にスペインのバレアレス諸島の社会変革によって廃れていったということだ。

「エス・カリッチ洞窟では、古代の伝統を捨て去ることに消極的だった何者かが、いつの日か過去の社会秩序が復興することを願って、コミュニティの特定の人物、おそらくシャーマンが所有していた儀式の道具のコレクションを隠していた」と研究チームは論文で説明する。「先祖の墓地を掘り進める過程で、その収集品を最も安全に隠すことのできる場所が発見された」

残念ながら、洞窟コミュニティの復興は実現しなかったが、それから2500年が過ぎた今、考古学者たちはそこで暮らした人びとの物語をつなぎ合わせている。